京野アートクリニック高輪

顕微授精(ICSI)により出生した男性の精液所見について

Semen quality of young adult ICSI offspring: the first results Human Reproduction, pp. 1-10, 2016 doi:10.1093/humrep/dew245 Hum. Reprod. Advance Access published October 5, 2016

男性不妊症で治療される方から、自分の体質(男性不妊)が子供に遺伝してしまうのか、というご質問を受けることがあります。ICSI(顕微授精)が男性不妊症の治療として登場し初めての妊娠出産に成功したのが1992年(ベルギー)で、以来その手技が世界中に広まり有効な治療法として定着したものの、児の長期的な予後についてのデータはまだありませんでした。ICSIにより出生した児は、父親の男性因子が原因でICSIが行われ妊娠に至ったため、特に男児においてはその父の男性因子を受け継いでいる可能性が示唆されます。以前、それらICSI出生男児の思春期発育ならびにセルトリ細胞・ライディッヒ細胞機能が正常であることは報告されましたが、これまで彼らの精液所見については情報がありませんでした。 世界中でICSIが行われはじめた最初期の出生児がやっと成人期を迎え、漸く彼らの生殖能力について調査が可能となったということで、本論文はベルギーからの報告です。

父親が男性不妊症であったためICSIが行われ、18-22年前に出生した若年男性の精液所見はどうだったでしょうか? 結論からいうと、ICSIにより出生した若年成人男性54名の精液所見は、自然妊娠により出生したコントロール男性に比べ、平均精子濃度、総精子数ならびに総運動精子数において有意に低いという結果がでました。

本研究は2013年3月から2016年4月まで、ベルギーのブリュッセル大学病院において、射出精子を用いたICSIにより妊娠・出生した18-22才までの若年成人の生殖能力および代謝機能に注目する大規模なフォローアップ研究の一部として施行されました。縦断的にフォローされたコホートの一部として若年成人ICSI出生男性と、横断的にリクルートされた自然妊娠により出生したコントロール集団の間の、身体検査(泌尿器科医による診察)および精液所見が比較されました。 若年成人ICSI出生男性54名と自然妊娠出生男性57名の1回の精液検体の結果が報告されました。各若年成人の健診結果はアンケート方式で完成されました。データは多重線形回帰、多重ロジスティック回帰分析により分析され、共変量について調整が行われました。さらに、ICSIを行った父親たちのICSI治療時の精液所見との相関が分析されました。

若年成人ICSI出生男性の検査結果中央値はそれぞれ、精子濃度(1770万/ml)、総運動精子数(3190万)、総運動精子数(1270万)であり、自然妊娠により出生した男性(それぞれ3700万/ml、8680万、3860万)の所見よりも低い値を示しました。総運動率、前進運動率、正常形態率、精液量については2群間に有意差を認めませんでした。交絡因子(年齢、BMI、性器奇形、射出から検査までの時間、禁欲期間)を補正した後も、ICSI出生男性と自然妊娠出生男性との間の統計学的有意差は存在し、後者では前者に比べ約二倍の精子濃度(比率1.9、95%CI 1.1-3.2)、前者は後者に対し二倍低い総運動精子数(比率2.3、95%CI 1.3-4.1)ならびに総運動精子数(比率2.1、95%CI 1.2-3.6)を示しました。さらに、自然妊娠出生男性に比べ、ICSI男性はWHOの基準値である精子濃度1500万/mlよりも低い数値である確率が約3倍(調整オッズ比2.7; 95% CI 1.1-6.7)、総精子数3900万以下である確率が約4倍(調整オッズ比4.3; 95%CI 1.7-11.3)でした。

さて、ICSI出生男性の父親の治療当時の精液所見はどうだったかというと、72%(39/54)が精液濃度1500万/ml以下、48%(26/54)が500万/ml以下の高度乏精子症、70%(38/54)が総精子数39万以下でした。

父親の精液濃度ならびに総運動精子数は、息子の数値と相関は見られませんでした(相関係数r= -0.2; p=0.09, r= -0.2;p=0.07)。さらに、父息子間の前進運動率、総運動率にも相関を認めませんでした(r=0.2;p=0.14, r=0.0;p=0.83)。54組の父-息子ペアからなるこの小さなグループの中では、父の総精子数は息子の総精子数と弱い負の相関を認めました(r= -0.3;p=0.02)。

ICSI出生男性は、彼らの父の精子濃度が1500万/ml以下であった場合、彼ら自身の精子濃度が1500万以下である可能性は低いという結果が示されました(OR 0.4; 95% CI 0.1-1.2)。同様に、ICSI出生男性は、彼らの父親が高度乏精子症(500万/ml以下)であった場合、彼ら自身の精子濃度が1500万/ml以下である可能性は低いことが示されました(OR 0.4; 95% CI 0.1-1.2)。総精子数39万以下のICSI出生男性の父親たちは、息子の総運動精子数が39万以上である可能性が高く、(OR 0.1; 95% CI 0.0-0.4)、総運動精子数39万以下の父親たちの40%のみが、その息子の総運動精子数39万以下であるという結果が示されました。

著者らも考察している通り、本研究の限界は、調査対象母集団が小さいことです。親が情報(不妊治療について)を子に開示しない家庭もあったり、あるいは親または子が調査への協力を希望しないケースも存在したため、元々はデータベース上215のICSI家庭(男児を出生)があったものの、調査協力者は最終的に54名まで減少しています。さらに、本研究の結果が、男性不妊を適応とした射出精子を用いたICSIであるところも、全てのICSI出生児には当てはまらないといえます。近年ICSIの適応は拡大し、かつ非射出精子を用いてICSIが行われることもあるため、今回報告されたコントロール群との差は変動する可能性があると指摘しています。

ICSIにより出生した男性の精液所見について、小規模ではあるものの本研究が初の研究報告となります。結果的に、父親の男性因子のためにICSIが施行され出生した若年成人男性の精液所見は量・質ともに低かったことが示されましたが、父親の治療当時の精液所見が不良だったとしても、必ずしもその息子の精液所見が低いとは限らないということも示唆されています。また、現在男性不妊因子がある場合、どれくらいの確率で子が男性不妊症になるかということまでは、まだわかっていません。今後の調査継続、ならびに各国の研究報告が待たれるところです。

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副院長 橋本朋子
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