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医療コラム

論文紹介 2018.01.06

慢性子宮内膜炎の原因不明不妊とART反復着床障害への影響(仙台院長 五十嵐)

  • #1 Live birth rate following oral antibiotic treatment for chronic endometritis in infertile women with repeated implantation failure. (Kitaya K, et al., Am J Reprod Immunol. 79, 2017)
  • #2 Chronic endometritis in patients with unexplained infertility: Prevalence and effects of antibiotic treatment on spontaneous conception. (Cicinelli E., et al. Am J Reprod Immunol. 79, 2018)

慢性子宮内膜炎と着床障害との関係が注目されています。慢性子宮内膜炎と聞いても良く分からない方も多いと思われますので、今回は慢性子宮内膜炎の説明とともに、最近報告された慢性子宮内膜炎に関する論文について紹介します。

今回紹介する論文は2報、(#1)ART治療周期における慢性子宮内膜炎を持つ反復不成功症例への抗生剤加療の効果について(ART治療成績への影響)、(#2)原因不明不妊における慢性子宮内膜炎を持つ反復不成功症例への抗生剤加療の効果について(自然妊娠への影響)、の研究報告です。

まず、慢性子宮内膜炎について説明します。

定義:
子宮内膜間質に形質細胞(CD138という細胞マーカーが陽性の細胞)の浸潤が認められる状態。慢性と言われる理由は、子宮内膜の深い部分(基底層)にまで炎症が及び、月経時には子宮内膜は機能層しか剥離が起こらないことから、基底層の慢性的な炎症が持続することに由来します。
症状:
多くは無症状です。時に軽度の不正性器出血や骨盤痛などをみますが、症状に乏しいことが特徴です。
原因:
細菌感染の可能性、子宮内避妊具の使用などですが、まだ不明な部分も多い。
診断:
①子宮鏡検査で子宮内膜の発赤や浮腫状の肥厚、単発または多発性のマイクロポリープなどが特徴的です。
②子宮内膜生検でCD138というマーカー細胞が陽性。

それでは論文を紹介致します。

#1 A ART治療周期における慢性子宮内膜炎を持つ反復不成功症例への抗生剤加療の効果について(ART治療成績への影響)

目的 弓状子宮は染色体正常胚の移植に対して影響を及ぼすか
【対象と方法】
  1. 良好胚を3回以上連続で移植しても妊娠反応陰性の反復不成功例(RIF: repeated implantation failure)を対象とした。
  2. 増殖期(day 6-12)に子宮鏡検査を施行し、子宮内評価を行った。
  3. 鋭匙にて子宮内膜生検を行った。
  4. 生検組織を2分割し、組織学検査(免疫染色にてCD138陽性細胞の同定)、培養検査(好気培養、嫌気培養、PCR(クラミジア、淋菌、マイコプラズマ、ウレアプラズマ)に提出した。
  5. 抗生剤加療:ドキソサイクリン(ビブラマイシン200 mg/日を14日間)を内服した。
  6. 再生検で効果判定し、無効時は第2選択の抗生剤を投与し、再再生検を行った。
【結果】
  1. RIFの33.7%が慢性子宮内膜炎と診断された。
  2. RIFかつ慢性子宮内膜炎症例とRIFで慢性子宮内膜炎がない症例で培養結果を比較したところ、RIFかつ慢性子宮内膜炎症例ではCorynebacteriumとMycoplasma hominisが有意に多く、Lactobacillusが有意に少なかった。
  3. ドキソサイクリン内服治療後は治療前に比較してLactobacillusが有意に増加し、Corynebacterium、Esherichia coli(大腸菌)、Enterococcus、B群溶連菌などが有意に低下した。
  4. 治療後の妊娠成績は3周期の胚移植による累積妊娠率で比較した。RIFかつ慢性子宮内膜炎症例ではRIFで慢性子宮内膜炎がない症例と比較して臨床的妊娠率(45.7% vs. 34.1%)と生産率(38.8% vs. 27.9%)が有意に高かった。
【結論】 RIFの1/3に慢性子宮内膜炎が存在し、抗生剤投与による治療により妊娠率と生産率の改善が期待できる。

#2 原因不明不妊における慢性子宮内膜炎を持つ反復不成功症例への抗生剤加療の効果について(自然妊娠への影響)

目的 弓状子宮は染色体正常胚の移植に対して影響を及ぼすか
【対象と方法】 原因不明不妊症で妊娠に至らない患者95名を対象。子宮鏡検査で慢性子宮内膜炎の所見無し(Group1、41名、平均32.2歳)、慢性子宮内膜炎の所見有り、抗生剤で治癒(Group2、38名、平均32.6歳)、慢性子宮内膜炎の所見有り、抗生剤で治癒せず(Group3、15名、平均30.8歳)に分け、その後の妊娠率を比較した。
【結果】
  1. 慢性子宮内膜炎の罹患率は56.8%であった。
  2. 82.3%の患者は抗生剤投与により、治癒した。
  3. 細菌培養では Enterococcus faecalis(腸球菌の1種)23.5%、大腸菌20.5%、B群連鎖球菌14.7%と多かった。
  4. 1年間での累積妊娠率はGroup2(慢性子宮内膜炎の所見有り、抗生剤で治癒)、Group3(慢性子宮内膜炎の所見有り、抗生剤で治癒せず)、Group1(慢性子宮内膜炎の所見無し)の順に76.3%、20%、9.5%であった。
  5. 累積妊娠率はGroup2、Group3、Group1の順に65.8%、6.6%、4.8%であった。
【結論】 慢性子宮内膜炎は不成功を繰り返す原因不明不妊に高頻度で存在し、治療できれば高い妊娠率が期待できる。

2つの論文を紹介しましたが、ARTだけでは無く一般不妊治療においても、反復不成功症例では慢性子宮内膜炎検査と治療が重要と考えられます。今回紹介した#1の論文では、慢性子宮内膜炎と診断されなかった反復不成功症例も比較的良好な治療成績となっています。これは子宮内膜のスクラッチによる着床改善効果と考えられます。

当院でもARTの反復不成功症例に対しては子宮内膜スクラッチ(前周期掻爬)、慢性子宮内膜炎検査(CD138陽性細胞検出)、着床不全採血(NK細胞、銅・亜鉛の測定、ビタミンD測定、免疫細胞の比率の検査)、ERA検査(子宮内膜胚受容能検査)など行い、着床の改善に努めています。これらの検査に加え、子宮内フローラ(細菌叢)検査と治療も開始しました(1月4日から)。子宮内の異常なフローラを改善することで、着床率の上昇と流産率の低下が期待できます。検査をご希望の方は是非外来にお越し下さい。

京野アートクリニック 院長 五十嵐 秀樹


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