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医療コラム

コラム 2020.02.05

筋トレが精子に及ぼす影響は

ここ1-2年筋トレブームが来ています。かくなる私も24時間ジムの会員であり、週1-2回の筋トレをここ数か月行っています。よく患者様から聞かれることに日常的に精子を良くするような習慣はないかということがあります。禁煙や射精を増やすなどというのは以前から言われていることですが、運動については言及したものはあまり見かけませんでした。

前のコラムでも何度か精子と酸化ストレスについて取り上げていますが、この酸化ストレスと運動の関係、ひいては精子への影響を調査した論文がありましたので紹介したいと思います。

酸化ストレスと運動、精子への影響

430人の精液所見に問題のある男性を2群に分け、片方は運動させ(EX群)、もう片方はそのままの生活を継続(NonEX群)し12週目、24週目、トレーニング終了後7日、30日、で、体重、BMI、体脂肪率、腹囲、肺活量、精液検査の各パラメータ、精子DNA損傷率、精液中の抗酸化物質・酸化ストレスマーカー、妊娠率、出産率を測定しています。また精液検査の状態によって精子無力症、精子無力奇形症、乏精子症、乏精子奇形症、乏精子無力奇形症と分けて検討しています。調査前には2群間に各パラメータで差はありませんでした。

施行された筋トレの内容ですが、かなりしっかりとやっています。週3回午後5-7時に、インストラクターがついて上半身、下半身各数種類のトレーニングを行っています。種目としてはベンチプレスなどのジムで行う一般的なものでした。重量はトレーニング開始時に測定した、1回だけあげられる限界の重さ(1RM)の50%で開始し、3回(1週間)ごとに5%ずつ重量を上げ、4週目には1RMの70%の重さで行います。4週たったらまた1RMを測り直し4週間同様に継続します。各トレーニングの回数は明記されていませんでしたが、一般的に1RMの50-70%という負荷は10-30回程度行い筋持久力を高めることを目的とした重量になります。

結果は体重、体脂肪率、腹囲、肺活量はEX群がNonEX群に比較し有意に改善しています。BMIは低下していますが有意差がないことから、トレーニング中は体重を維持しており、脂肪を減らして筋肉をつけたことがわかります。食事はEX群とNonEX群で差がなかったとのことで、とくにカロリー制限や高たんぱく食などトレーニング向けの食事などは行わずトレーニング以外は日常通りに過ごしていることがわかります。

精液検査のパラメータは12週目からいくつかは有意差が出始めますが、24週目になると精液量以外のすべての項目で有意に改善し、トレーニング終了後30日後迄維持されています。DNA損傷率もやはり12週で低下し始めますが有意差が出るのは24週からで終了30日後も維持されています。

抗酸化物質は12週で上昇し始め、24週目でピークになります。しかしトレーニングをやめるとすぐに低下していき、30日でベースラインに戻りました。酸化ストレスマーカーも24週で有意に低下し、終了後30日でベースラインに戻っています。

これらの結果から、精子のコンディションを改善するためには少なくとも3か月以上のトレーニングが必要でありますが、一度改善した精子は運動をやめても1か月程度であれば改善が担保されます。運動の中断とともに抗酸化物質が低下していくことからいずれは元に戻っていくことが予想されます。

妊娠率はすべての精子の状態で妊娠率は2.5-5%から20-50%台まで改善しています。また出産率も同様に上昇していました。

運動が抗酸化物質の産生を促し、酸化ストレスを低下させる報告はいくつも報告されています。今回筆者はこれらの抗酸化物質が精巣の酸化ストレスを改善し。精液所見の改善、DNAの損傷を改善したのではないかと考察しております。

今回のデータでは継続した運動は精液検査だけでなく精子の質も改善し、妊娠率、出産率ともに改善することがわかりました。また運動による抗酸化作用は全身の老化を防止する作用が期待され、生まれてくるお子さんを若々しく健康的な体で迎えることができます。精子の改善を期待したい方は極端なダイエットや低糖質などを行わず、日常の運動をしっかり行っていくのが大切だと感じました。

参考文献:Resistance exercise modulates male factor infertility through antiinflammatory and antioxidative mechanisms in infertile men: A RCT
Behzad Hajizadeh Malekia, Bakhtyar Tartibianb

医師部 田井俊宏

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