コラム 2022.02.22
今回は血液検査データの基準値についてご説明いたします。
検査データを判断するための一般的な目安として、ほとんどの検査項目には「基準値(基準範囲)」や「臨床判断値」が設定されています。
当院ではほとんどの項目で「基準値」をもとに判断しています。
皆さまにお渡しする検査結果報告書には「基準値」が記載されていて、基準値から外れた場合は記号や色でわかるようになっていると思います。
「基準値」と「臨床判断値」は混同されがちですが、設定するための基準や算出方法が異なります。
まず、これらを簡単にご説明いたします。
基準値(基準範囲)
基準値は多くの場合、統計学的に設定されています。一定の基準を満たす健常者の検査結果に対して統計学的な処理を行い、その中の95%が入る範囲を示したものです。
以前は「正常範囲」とも呼ばれていました。
しかし、基準値の出し方からもわかるように5%の健常者は基準値から外れることがありますし、基準範囲内でも個人別にみるとその人にとっては異常な場合もあります。これらのことから現在では「基準値」や「基準範囲」という言葉が一般的です。
生化学や末梢血検査など、全国で試薬や測定方法などが標準化された検査項目では全国統一の基準値を用いるものもありますし、検査試薬や施設ごとに設定された基準値を用いる項目もあります。
画像引用元:日本臨床検査標準協議会 基準範囲共用化委員会 編
『日本における主要な臨床検査項目の共用基準範囲 ―解説と利用の手引き―』p.8
臨床判断値
基準値が健常者に対する検査結果の判断材料ですが、「臨床判断値」は特定の病気の判断基準や治療の目標として用いられる値です。
例えば、甲状腺機能を評価するための検査にTSHというホルモンがありますが、当院ではTSHの「基準値」を0.61~4.23 μU/mLと設定しています。
TSHの「臨床診断値」の例として、バセドウ病ではTSH ≦ 0.1μU/mLとしています。(日本甲状腺学会「バセドウ病の診断ガイドライン」)
また、妊娠中に甲状腺ホルモンが不足すると胎児の発育や、妊娠経過(流産、早産)に悪影響を及ぼす可能性が高くなることから、国際ガイドラインでは妊娠前、妊娠初期のTSH値を<2.5μU/mL、妊娠中期(14週以降)<3.0μU/mLになるように推奨しています。
次に、当院ではどのような基準値を用いているかご説明いたします。当院では性ホルモン検査などの院内検査以外は外注委託しています。
院内検査のうち性ホルモン検査は試薬メーカーや学会、文献などの情報を参考にして設定された基準値を用いています。女性の性ホルモンは月経周期によって大きく変化しますので、月経中、卵胞期、黄体期など周期内で基準値を設定しています。月経周期以外にも年齢や卵巣機能、治療目的によっても基準値は変わってきます。
外注委託検査の基準値は委託先で設定したものを使用しています。
したがって、委託先で使用する試薬や検査方法が変更される場合は基準値も変更されることもあります。多ければ年に数項目の基準値変更があります。
同じ検体を測定した場合でも、試薬が異なると値が大きく変更する場合もあるため、数値だけを見ると前回値から大きく変化していている場合や、変化がなくとも前回値は基準値内、今回は異常値となる場合もあります。
当院では基準値が変更される場合は事前に医師や看護師に周知しております。
また、変更後もしばらくはデータの変化を注意深く確認しております。
検査データについてご不明な点などございましたら、お気軽に当院スタッフまでお声がけください。
京野アートクリニック仙台 検査部
土佐 知美
参考文献 日本臨床検査医学会「臨床検査のガイドラインJSLM2018」
https://www.jslm.org/books/guideline/2018/00.pdf
日本甲状腺学会「バセドウ病の診断ガイドライン」
http://www.japanthyroid.jp/doctor/guideline/japanese.html#basedou
日本臨床検査標準協議会 基準範囲共用化委員
診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
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