コラム 2022.10.31
精索静脈瘤という言葉は、ここ数年で急に有名になりました。
僕がペーペーの一般泌尿器科医だった十数年前は(泌尿器科医にもかかわらず!!)ほとんど聞くことはなく、たまに精巣の痛みなどから当時の上司が診断を付けると、どこか専門病院に紹介していたことを記憶しています。
大学院に入り男性不妊を学ぶため、そのどこかの専門病院だった東邦大大森病院に国内留学してみると、びっくりするくらい患者さまが多く、ほぼ毎週手術をしていました。その訳は、当時はこの手術をしている病院が都内とその近郊で5-6か所であり、専門部署で男性不妊の専任者がいるのはさらに少なく、ほとんどの男性不妊の患者さまが大森病院にいらっしゃっていたからでした。
精索静脈瘤は男性の15%ほどにあり、そのうち40%くらいは妊孕性(妊娠する力)に何らかの問題が出ると言われています。また男性不妊症の原因の30%程度を占め、原因がわかるものの中では最も多くを占めます。ちなみに原因不明が50-60%で最大です。
精索静脈瘤の機序は精巣の静脈(心臓に戻る血管)が腹圧や重力などに負けて逆流し、精巣がうっ血してしまうことです。以前は温度が高くなるのが悪いと言われていましたが、最近は血の巡りが悪くなることによる低酸素での酸化ストレスも精子への悪影響の原因と指摘されています。
BJUI SURGERY ILLUSTRATED – SURGICAL ATLAS より引用
精索静脈瘤は男性不妊の原因になることは間違いありません。
精索静脈瘤は血管の機能障害が原因であり、精索静脈瘤で起こる問題のほとんどは男性不妊です。
もし夫婦で望むだけの子どもが出来て、痛みなどが出なければ、特に治療しなくても問題は起こりません。例えば治療しないと癌になるとか、不健康になるなどの信憑性のあるデータは見られません。また治療したから健康になるというデータも見られません。
精索静脈瘤は病気というより、精巣に負荷がかかってるいうのが僕のイメージです。負荷がかかっても大丈夫な場合もありますが、パフォーマンスが不十分ならコンディションを良くして力が発揮できるようにしてあげる必要があり、それが精索静脈瘤の手術であると考えています。
どんなに小さい手術でもノーリスクではありませんので、精索静脈瘤の手術は基本的に現在不妊で悩んでいる方、精液所見が悪いなどで将来に不妊が予想される方、生活に困るくらいの違和感や痛みが出る方が治療対象になると考えています。
十数年前の僕が男性不妊の勉強を始めた頃は、夫が精索静脈瘤でも妻が37歳を超えていれば手術は勧めませんでした。精液検査が良くなっても、妻の年齢が上がってしまっては結局妊娠につながらないので、精索静脈瘤の手術などしていないで、まず体外受精をしなさいという考え方です。精子が増えて、顕微授精→人工授精などStep downが最大目標でした。そのため婦人科の先生も男性不妊に興味を示さない人が多く、学会のセッションもさみしいものでした。
その後、徐々に男性不妊が日の目を見るようになり、精索静脈瘤の手術をすると精液所見が良くなるだけでなく、妊娠もしやすくなり、体外受精や顕微授精の成績にも影響するという報告が上がり始めました。精索静脈瘤の治療で精子の質が良くなり、妻の治療の成績向上や、負担軽減が期待できるという認識に代わってきたのです。
そういったことから、婦人科からもアプローチが増え始め、相談の患者さまが増えるとともに受け皿も増えてきました。ただでさえマイナーな泌尿器科の中でも更にマイナーな男性不妊でしたが、勉強したいという先生も増え、Webやメディアでの情報発信に後押しされ、徐々に世間に認知されてきたものと思います。
京野アートクリニック高輪
医師部 田井俊宏
診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
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