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医療コラム

学会報告 2023.01.09

若年性乳癌患者への妊孕性温存と融解後の治療の状況について

こんにちは。生殖医療相談士の越智と申します。
先日、第18回乳癌学会関東地方会にて、当院における乳がん患者の妊孕性温存と融解後の治療状況について発表してまいりましたので、簡単に紹介したいと思います。
妊孕性温存は従来完全自己負担の治療でしたが、2021年に温存に対しての助成金が始まり、2022年からは融解して妊娠にチャレンジする際にも助成金が出るようになりました。
そうした追い風もあり、実施される方々は増加傾向にあります。
実際妊孕性温存を行う方々のご病気の種別としては、60%近くが乳癌と報告されています。
乳癌の罹患者は年9万人ほどでそのうち4%程度がAYAがん世代です。比率は決して高くないのですが、罹患者数が多いため、絶対数も多くなります。
そして、妊孕性温存の大きくプロセスを分けると、「温存する」ところと「使用して妊娠する」ことにあるように思います。
受精卵凍結や卵子凍結に関しては、使用して妊娠すること、が課題になってきていますし、卵巣凍結に関しては日本はまだ温存するところに大きな課題を抱えているように思います。
なお乳癌学会の関東地方会なので、乳がん患者さんかつ東京の施設に限定した検討をしています。
データを調べたところ、116例の若年性乳癌の方に妊孕性温存を実施していましたので、その詳細や患者さんの背景、融解して利用した方々の成績などを後方視的に検討しました。

結果

結果としては妊孕性温存の実施は116例で、その内訳は受精卵凍結は48例で、卵子凍結は49例、卵巣凍結は23例で実施していました。

卵巣凍結と卵子凍結を併用したのは3例、卵巣凍結と受精卵凍結を併用したのは1例でした。

凍結物を使用したのは、受精卵凍結をした内の17例で、その後妊娠したのは8例、出産したのは7例でした。

妊孕性温存の実施は116例の内訳の図。

患者背景の特徴

初診時の平均年齢を調べると、35.4歳(23-46歳)となりました。

乳癌の次に妊孕性温存を行うことが多い、血液疾患の場合は約27歳ですので、乳癌は比較的AYA世代の中では高齢な方が多いと考えられます。

それに連動していて、既婚率も50.8%となりました。

血液疾患の場合は約35%ですから、やはり若干高い傾向があります。

ただ、この数値は年々低下してきているような印象があります。

また、乳癌のサブタイプで分類してみると、以下のような結果となりました。

乳癌のサブタイプで分類した図

ルミナールA型というのは、ホルモン受容体が陽性で、HER2が陰性、KI-67が低いという方で、乳癌で最も多いパターンです。

多くの場合、治療は手術+ホルモン療法(+放射線療法)ということで、予後も良好なケースが多いとされます。

ルミナールBやHER2、トリプルネガティブとなると、治療内容は異なるものとなり、摘出手術に加えて、抗がん剤治療が入ってくるケースが多くあります。予後もA型に比べれば、不良とされる報告も多いです。

一般的にはルミナール型(A+B)が7割程度とされますが、上記データだと80%なので、概ね同様の傾向であることがわかります。

妊孕性温存の詳細

妊孕性温存の詳細としては、受精卵凍結は48例で、卵子凍結は49例、卵巣凍結は23例で実施となります。

卵巣凍結が適応されるケースとしては、緊急性を伴う若年性の癌であることが多く、乳癌患者さんの場合はトリプルネガティブのように抗がん剤治療が必要となるケースがメインとなります。

実際に23例のうち、16例が化学療法予定となっていました。

また、妊孕性温存で重要な要素に、「時間」があります。

妊孕性温存をした後には、患者さんはがん治療に速やかに戻りますから、短期間で妊孕性温存が完了するのが理想的なわけですね。

初診から温存実施までの日数の比較表。受精卵・卵子凍結は16.3日、卵巣凍結は17.5日、卵巣凍結(Triple negative)は9日

データを見ると、受精卵凍結と卵子凍結は16.3日、卵巣凍結は17.5日でした。

卵巣凍結のデータの詳細を見ると、1例でとても長期間悩まれた方がいて、平均が高くなってしまっているようでした。

最も時間的な制約が強いトリプルネガティブでは9日間での実施完了となっていました。

これは共に、短い数値ではないかと思います。

当院の場合、問合せの電話から情報提供を実施し予約を取得しますが

電話から情報提供が1.5日、そこからの予約が2日程度なので、問合せから見れば20日程度で妊孕性温存が実施できていると考えられます。

融解後の利用状況

妊孕性温存を実施した後に、融解して利用しているのは、現時点では、受精卵凍結をした方々のみで、17例が利用していました。そのうち妊娠が10例、出産が8例という結果でした。

詳細を調べると、

胚移植後妊娠した郡の初診時平均年齢は34.3歳、非妊娠郡は39.0歳という差があり、やはり女性の年齢と妊娠率との関係を感じる面がありました。

 

凍結をしたものの、自然妊娠した例は2例があった点も特徴です。

妊孕性は完全に喪失するという人もいますが、低下、にとどまる方もいらっしゃいます。

なので、凍結物を利用しないという方もいるわけですね。

廃棄は全体の6%で、自然妊娠、原病死、本人希望、音信不通などの理由がありましたが、精子凍結などと比べると廃棄の比率や音信不通などの割合がとても低く抑えられているように感じました。

これは、フォローアップ体制に力を入れているという点、はじめに患者さんとのすり合わせをしっかりと行っている点が関係しているだろうと推測します。

今後の課題

多くの患者さんが現在まだ闘病中なので、凍結物の利用は低いですが、時間の経過と共に高まってくると思います。

課題として上がってくるのは、遺伝性乳癌への対応が一番だと思います。

妊孕性温存の方法はもちろんですが、それ以前に患者さん、生まれてくるお子さん、ご家族、兄弟などにもケアの必要性が高まってきます。

そうした点は、生殖医療施設だけでどうにかなるものではないので、乳腺の先生を始め多職種での連携を深めていく必要があると感じてます。

当院は生殖医療専門医、胚培養士、看護師、臨床検査技師、相談士など多職種連携で、妊孕性温存の患者さまを受け入れ、しっかりとサポートさせていただきます。

お悩みの方がいらっしゃいましたら、いつでもお声がけください。

京野アートクリニック高輪

越智 将航


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