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医療コラム

コラム 2023.05.08

若年乳癌患者への妊孕性温存が無病生存期間に影響しない

生殖医療相談士の越智と申します。

若年がん患者さんに向けた妊孕性温存について紹介したいと思います。

今回は、海外の研究で、妊孕性温存を行うことと乳癌治療後の無病生存率との関係についての評価が報告されているので共有させていただきます。

どの癌でもこの要素は強いと思いますが、

原発がんを治療した後、いかに再発させないか、

ということが、患者さんの生存率やその後のQOLに影響してくると考えられています。

この点からもあまりがん治療の中では「治癒」という言葉を容易に使わないな、という印象があります。

ですから、無病生存率、というのがとても重要な指標となります。

乳がんの患者さんで最も多く行われる妊孕性温存は、おそらく受精卵凍結と卵子凍結となりますが、これらの温存方法では【卵巣刺激】を行います。

その場合、通常はレトロゾールと言われるお薬を併用することで、ホルモン値が上がらないように調整しながら行うものですが、こうした卵巣刺激が乳がんに本当に影響がないのかどうか。
あるいは卵巣過剰刺激症候群などになり、万が一乳がん治療が遅れるとなれば、どうしてもがん治療の成績に悪影響が出ることも考えられます。

こうした懸念点をかかえながらも、これまで妊孕性温存を実施してきているわけですが、それらの懸念点が実際にはどうなのか、ということを検証した研究です。

2013 年から 2019 年の間に 18 ~ 43 歳の乳がん女性 740 人の方が妊孕性温存を受けており、そのうち328人の患者が少なくとも1回の卵巣刺激サイクルを受け(卵巣刺激グループ)、412人がホルモン投与なしの技術を受けました(卵巣刺激なしグループ)。このデータを解析した研究です。

妊孕性温存を受けた 740 人の女性のうち、追跡可能であったデータは、卵巣刺激を行ったグループの 269 人の女性 (82%) と卵巣刺激を行わなかったグループの 330 人 (80%) で利用可能でした。
4 年での無病生存率は、卵巣刺激群と非卵巣刺激群でそれぞれ 87.9% (82.8%–92.2%) と 83.1% (78.4%–87.3%) でした。

予後パラメータの調整後、卵巣刺激群と非卵巣刺激群の間で乳癌再発率に有意差は認められなかった (ハザード比 0.83 [0.64–1.08])。

4 年での全生存率のは、卵巣刺激群と非卵巣刺激群でそれぞれ 97.6% (95.3%–99.2%) と 93.6% (90.9%–95.9%) でした。

全生存期間は、非卵巣刺激群よりも卵巣刺激群を使用するグループの方が高かった (ログランク検定)。予後パラメーターの調整後、死亡リスクは卵巣刺激群で有意に低いままでした。

この研究から読み取れることとして、卵巣刺激を行う方が安全性が高い、ということではありません。

乳がんにも種類があり、通常は卵巣刺激を行うのがセオリーである中、卵巣刺激をしないことを選択するというのには、それ相応の理由があると考えられます。

もっと詳細を見てみたいと思いますが、現時点で言えることとしては、乳がん患者さんにおける妊孕性温存が乳がんに与える影響は少ない、ということではないでしょうか。

 

また当院では緊急性を伴う若年乳癌患者の方への治療のオプションとして卵巣凍結もあります。

がん治療が遅延なく安全に行えることを前提としながら、患者さんの状況やご希望に合わせた妊孕性温存を実施しておりますので、いつでもお問合せください。


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