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医療コラム

コラム 2023.05.24

子宮鏡検査の有用性

子宮鏡検査の有用性

●子宮鏡とは、腟から子宮内腔に挿入する胃カメラのような器具のことで、子宮腔内を直視下に観察する内視鏡検査です。子宮内膜が厚い時期や、出血があると観察ができないため、月経10日目前後に行うのが望ましいとされています。

●子宮鏡で診断できる病気
子宮鏡により子宮内腔を観察することで、不妊症の原因となる病気や状態がわかります。

・子宮内膜ポリープ:子宮内膜にできる良性の腫瘍です。不正性器出血の原因となりますが、無症状の方もいます。ポリープの大きさや位置によっては、不妊の原因にもなり得ます。

・粘膜下筋腫:筋腫が子宮内膜の直下にでき、子宮の内側(内腔)にむけて発育するものです。月経痛や過多月経など最も症状が強く、着床障害や流早産の原因にもなります。

・慢性子宮内膜炎:子宮内膜に慢性の炎症がある状態で、不妊症の原因になります。
慢性子宮内膜炎は子宮内膜の深い基底層にまで細菌が侵入し、炎症が起こり、持続している状態です。ほとんどの人に自覚症状がない、時に不正性器出血や骨盤痛等を認めますが、症状に乏しいことが特徴です。しかし、子宮内に雑菌が繁殖し、細菌感染が続くと炎症症状が慢性的になり、感染の持続により免疫活動が活発化、子宮内膜内の免疫異常や脱落膜化障害を惹起、受精卵を異物として攻撃してしまう可能性も指摘されています。このように慢性子宮内膜炎は、着床障害や反復流産の原因になりうる重要な要因です。

・先天性子宮形態異常:生まれつき、子宮が本来と異なる形をしていることがあります。子宮は胎児期の早い時期にミュラー管という2本の管が癒合して出来上がります。この癒合が上手くいかないことが先天性子宮形態異常(子宮奇形)の原因であると考えられ、女性の5%程度に見られます。過少月経(経血量が非常に少ない)、月経不順、月経困難(主に月経痛が強いこと)などの月経異常、および不妊や習慣性流産、早産の原因になる他、分娩にあたって胎位の異常、微弱陣痛、胎盤遺残などの異常をきたすことがあります。

・アッシャーマン症候群(子宮内腔癒着):子宮内膜の炎症などにより、子宮内腔が癒着により狭くなった状態です。不妊症の原因となったり、経血量が減るなどの症状が起こります。

・子宮内膜癌、子宮内膜増殖症、胎盤遺残、胎盤ポリープの診断のために行うこともあります。

●子宮鏡で行う検査
・選択的卵管通水法
子宮鏡で見ながら細い管を片方の卵管に入れ、色素液を注入して通過性を確認する検査です。
卵管が詰まっているか確認できます。保険適用はされていません。(当院では行っておりません)

・子宮内膜生検
子宮鏡で子宮内膜の組織を採取して、組織を調べる検査です。良性病変、慢性子宮内膜炎でCD138という形質
細胞の検出の他、まれに子宮内膜増殖症、子宮内膜癌が検出されることもあります。

●子宮鏡で行う治療
子宮内膜ポリープや子宮粘膜下筋腫を摘出したり、アッシャーマン症候群(子宮内腔癒着)による子宮内の癒着を剥離することができます。

子宮鏡手術には、外来で行うものと、入院して行うものがあります。
・外来で可能な手術
胃カメラのような軟性子宮鏡や直線状の細い管の細径硬性子宮鏡を用いて、子宮内膜ポリープを取り除く子宮内膜ポリープ切除術や、癒着した子宮内腔の組織をはがす子宮内腔癒着剥離術があります。
・主に入院して行う手術
直線状の太い硬性子宮鏡のレゼクトスコープを用います。外来で行う子宮鏡手術では難しい症例や子宮粘膜下筋腫症例などに対して、治療が可能です。
・病変を細かく刻んで回収することで切除できる新しいタイプの硬性子宮鏡であるモルセレーション器具の使用も行われるようになり、手術の安全性の向上が期待されています。

●子宮鏡の有用性、不妊治療に果たす役割
子宮腔内の病変は着床の阻害や、流産に起因し不妊症症例の約25-50%に認められます。子宮内膜ポリープや子宮粘膜下筋腫があると、妊娠率や着床率が低下することがあります。不妊患者に対する子宮鏡下内膜ポリープ摘出術や子宮鏡下粘膜下筋腫摘出術は妊娠率を高めるとの報告が多くあります。また、子宮鏡で慢性子宮内膜炎を診断して治療をすることで、受精卵を複数回子宮内に移植しても妊娠しない反復着床不全症例の胚移植当たりの妊娠率が高くなることがわかっています。慢性子宮内膜炎の診断には、視覚的・組織的にアプローチできる子宮鏡の有用性が高まっています。しかし、先天性子宮形態異常では、双角子宮や中隔子宮に対する手術を行うことにより、流産率が低下するとの報告もありますが、有効性はないとの報告もあり、まだ明らかな結論は得られておりません。

生殖補助医療 (ART)に進む前のルーチンの子宮鏡検査では、臨床妊娠率の改善が見られましたが、生児出生率に有意な改善は見られなかったとの報告もあります。しかし、なかなか着床に至らない方や超音波検査等で子宮及び子宮内腔に所見を認める場合は、着床不全・不育症の検査・診断・治療において実際に子宮内を観察する子宮鏡検査は重要であり、当院では積極的に子宮鏡検査を行なっております。

京野アートクリニック仙台 戸屋真由美

【参考文献】
治療の難しい不妊症のためのガイドブック Guide14 子宮鏡を用いた観察(診断)・検査・治療(厚生労働省 令和3年度子ども・子育て支援推進研究事業)

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