コラム 2023.12.15
当院では、がん患者の方が将来妊娠することが出来るように、がん治療前にご自身の卵子や卵巣を保存しておく治療(妊孕性温存)を積極的に実施しています。
2020年には災害対策も考慮して、日本卵巣組織凍結保存センター(HOPE)を移転し、日々安心の治療、安全な保管を心掛けています。
今回は、ゲストとしてSputniko!さん、von Wolff教授にHOPEにおいでいただき、見学後に座談会を開催しましたので、その内容を紹介させていただきます。
(左から)Sputniko!さん、von Wolff教授、京野
【Sputniko!さん(尾崎マリサ優美さん)】
東京藝術大学デザイン科准教授
ロンドン大学インペリアル・カレッジ数学部を卒業後、英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)で修士課程を修了
世界中を飛び回ってご活躍されており、現在は女性の健康課題解決を通じたダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DEI)推進を支援する株式会社Cradleの代表取締役社長です。
語学も大変堪能で、すべて彼女が通訳して下さり、順調に対談がすすみました。
【von Wolff教授】
スイス ベルン大学 婦人科
ドイツ、オーストリア、スイスの卵巣組織凍結・移植ネットワーク「FertiPROTEKT」の創設者
妊孕性温存のスペシャリストで、今回はご自身の豊富な経験を教えていただきました。
【FertiPROTEKTについて】
はじめに、ドイツ・オーストリア・スイスの卵巣組織凍結・移植ネットワーク「FertiPROTEKT」についてvon Wolff教授から説明していただきました。
FertiPROTEKTネットワーク
(★は連携施設、〇は凍結施設)
FertiPROTEKTネットワークの最大の利点は患者さんが移動することなく、摘出した卵巣のみを移送し、専門施設で凍結することが出来る点です。
FertiPROTEKTネットワークの圏内にいる人口は1億人ほどですが、凍結施設や移植施設を数か所に限定し、経験の多いスタッフが凍結・移植を担当することで、これまでに4000例以上の卵巣組織凍結を安全に実施しています。
【出産例の紹介と実績】
FertiPROTEKTで初めて出産に成功した患者は25歳でホジキンリンパ腫にかかり、ドレスデンで卵巣を摘出しました。
摘出した卵巣組織は地元では凍結できないため、18時間かけてボンまで搬送し、卵巣組織を凍結保存しています。
4年後、病気が完治して妊娠を希望しましたが、がん治療のため卵巣の機能が喪失しており、移植技術の高いエルランゲンの病院にて凍結した卵巣を移植しました。
そのあとは地元のドレスデンにもどり、卵巣組織を移植してから9か月後に自然妊娠し、元気な男の子を出産しています。
これまでにFertiPROTEKTでは200例以上の患者さんに卵巣組織を戻しており、2023年4月の段階までに67人の赤ちゃんが誕生しています。
これは世界一の実績で、すべてFertiPROTEKT Networkのチームワークと熱意によるものであるとWolff教授は強調していました。
【当院の活動と国内の状況】
京野からは当院の活動と日本の課題を報告し、Wolff教授とディスカッションを行いました。ヨーロッパ生殖医学会のガイドライン(2020)では、卵巣組織の凍結には「緩慢凍結法」の採用が推奨されており、当院でも緩慢凍結法を利用しています。
また、当院ではデンマークの卵巣凍結の大家であるAndersenが掲げる”The woman stays-the tissue moves”のコンセプトを重要視しており、患者さんは地元で治療し、卵巣のみを技術力のある凍結保存施設や移植施設で行うことより、最低限の労力で最大限の効果を期待できることを説明しました。
当院が実施している妊孕性温存ネットワークの構築
少子高齢化によりますます人口減少が予想される日本では、がん治療施設・凍結施設・移植施設のそれぞれが密に連携をとることにより、患者第一主義の医療が可能になることを確認しあいました。
当院では、今後も妊孕性温存治療の提供に努めてまいります。
がんになった時に少しでも妊娠について不安な点があれば、当院までご相談下さい。
京野廣一
診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
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