論文紹介 2018.09.04
今回紹介する論文は、体外受精や顕微授精後の受精卵を育てる培養器(インキュベーター)の違いによるその後の受精卵への影響についての報告です。
現在、日本の施設でよく使用されているドライタイプ型と言われる培養器は、患者さん個々に培養する部屋が分かれており、個別管理できるため取違い防止や清潔度を維持しやすいために広く普及しています。 培養器は本来の体内に極力近い環境が望ましいと考えられており、このドライタイプで指摘されていた課題は、培養状況を観察するために、培養器から受精卵を取り出すことによって、受精卵に何かしらかのストレスがかかっているのではないかという点でした。
近年では、タイムラプスイメージングシステム型培養器が開発され、顕微鏡カメラが内蔵されており自動的に一定間隔で写真を撮って観察しているシステムになっています。これにより、従来のドライタイプ型のように観察のために培養器から取り出す必要がなくなりました。つまりより体内の環境に近づいていると考えられています。
これら2種類の培養器は同じくドライタイプなのですが、一方は観察のために何度も培養器から外に出して観察が必要で、一方はずっと培養器から外に出さずに済むタイプの違いになります。
今回はその2つの培養器により培養された受精卵にその後の発育等で何か違いが見られるかを検討したフランスの施設からの報告になります。
Randomized controlled trial comparing embryo culture in two incubator systems: G185 K-System versus EmbryoScope
Fertility and Sterility, Volume 109, Issue 2, February 2018, Pages 302-309.
Julie Barberet et al.,
少なくとも6個の成熟卵子が得られ顕微授精を行った合計386人の患者を対象に行った無作為化試験になります。その結果は、2種の培養器の違いで着床率(妊娠率)に違いはなかったが、培養2日目の良好形態胚率がタイムラプスイメージングシステム型で培養した方が通常のドライタイプ型に比べ有意に高い結果となりました(40.4% 対35.2%)。
また、凍結胚の総割合も、タイムラプス型で培養した方が通常のドライタイプ型に比べ有意に高い結果となりました(29.5% 対24.8%)。
今後、こうした凍結胚の移植が行われ、その成績の比較などがされていくことで、より正確な比較ができるようになってくるものと思いますが、現時点では、やはり培養器から取り出して観察の必要のないタイムラプスモニタリング型培養器の方が、受精卵にとってより良い環境で培養出来ることが明らかになりました。元々受精卵はお母さんのお腹の中で育ち、決して体の外に出ることがないので、培養器から何度も取り出すことが受精卵にとってストレスになっているのだと考えられます。
当院でも以前はドライタイプ型培養器をメインで使用しておりましたが、現在はタイムラプスイメージングシステム型培養器をメインに使用しております。今後も患者様からお預かりした大切な受精卵を少しでも良い環境で育てていきたいと思います。
京野アートクリニック高輪・仙台
培養部 青野
診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
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