PGT-SR(着床前胚染色体構造異常検査)について紹介します。
PGT-A(着床前胚染色体異数正検査)については以下から確認ください。
両親から受け継がれる23本の染色体は一般的には同じ形をしているため、どちらが母親か父親か区別することはできませんが、この対になる染色体の形が異なる場合があり構造異常と呼ばれます。構造異常には遺伝子の量的に過不足がない均衡型と、過不足のある不均衡型があります。
均衡型構造異常を持っていても特に異常はありませんが、次の世代に遺伝情報を伝える配偶子(精子や卵子)が形成される時に問題となるため、不妊や流産がきっかけで偶然見つかることがあります。
均衡型相互転座とは2種類(3種類もあり)の染色体の一部で切断が起こり、お互いに場所を入れ替え再結合したもので、二つの染色体の形は異なりますが遺伝子の量的な過不足はありません。均衡型相互転座はおよそ500人に1人(参考文献1)に見られますが、反復流産カップルでは約40組に1組と高頻度に見つかります(参考文献2)。
精子や卵子は23本の染色体を持ちますが、これは身体が持つ46本の染色体を半分にする減数分裂により23本となります。この減数分裂では両親から受け継がれた遺伝情報の交換をすることで均等に分配したり、多様性を生み出したりします。この時、一対の染色体が同じ形であれば、情報交換した後にできる染色体の遺伝子量はすべて同じです。
しかし、均衡型相互転座では同じ遺伝情報を交換するためには、交差点のような形(四価染色体)を形成する必要があります。この4本の染色体で情報交換を行い半分になるとき、いろいろな分かれ方があります。対角線状の2本がセットになり分離(交互分離)すれば均衡型となります。しかし、上下の2本がセット(隣接Ⅰ型分離)になる分離や、左右の2本がセット(隣接Ⅱ型分離)になる分離からできる配偶子はいずれも不均衡型となります。時には3本と1本で分離(3:1分離)することもあります。
これらの分離から造られる配偶子が転座のない配偶子と受精してできる受精卵は次のようになります。
交互分離の配偶子による受精卵は、転座をもたない①や親と同じ相互転座を持つ②として出生することができます。しかし、隣接Ⅰ型分離の配偶子による受精卵③と④は、部分的に過不足が生じるため妊娠しても流産に結びつく可能性が高くなります。隣接Ⅱ型分離の配偶子による受精卵⑤と⑥は、バランスが大きく崩れますので、胚盤胞になることはあっても臨床的妊娠まで発育するのは難しくなります。
胚生検や検査方法はPGT-Aと同様です。
PGT-SRの結果では、染色体の量的なバランスがとれている①と②は同じ結果となるため生まれてくる赤ちゃんが相互転座を持つかはわかりません。不均衡型の場合には③や⑥のように過剰になる部分の波が上がり、不足する部分の波が下がります。
均衡型相互転座から形成される胚の種類を見ると、均衡型は6種類の中の2種類、すなわち1/3の確率と思いがちですが、PGT-SRの結果を見ると理論通りではないことがわかります。実際に、どのような組み合わせが起こりやすいかは、転座に関わる染色体番号や切断の位置により異なり、個々の転座について考える必要があります。また、転座領域が小さい場合は検出できないこともあります。
染色体番号13、14、15、21、22の5種類は上部(短腕)がとても短い染色体です。このような染色体は下部(長腕)どうしがつながり1本となることがあり、これをロバートソン転座と呼びます。
ロバートン転座はおよそ1000人に1人が持ち、13/14の組み合わせが最も多く1300人に1人の頻度で見られますが、不妊カップではその約7倍、乏精子症からは約13倍の高頻度で見つかると言われています(参考文献1)
ロバートソン転座の配偶子が造られる時には3本の染色体を二つに分けるため、いつも1本と2本の組み合わせになります。転座のない2本や転座した1本の配偶子が受精することにより①や②の均衡型受精卵となり出生することができます。しかし、転座との2本の組み合わせによる配偶子が受精すると③や⑤の受精卵のように3本の染色体を持つことになり、転座型13トリソミーや転座型21トリソミーは一部ではありますが出生することも可能です。転座のない1本の配偶子による受精卵は④や⑥のモノソミーとなり、胚盤胞には発育しても臨床的妊娠することは難しいと考えられます。
ロバートソン転座も相互転座と同様に①と②は同じ結果となりますので、胚が転座を持つか判断することはできません。また、ロバートソン転座から見つかる不均衡は、染色体全体が転座しているため異数性のトリソミーやモノソミーとの区別もつきません。
ロバートソン転座では配偶子が造られる時の分離に男女間で差が見られます。男性保因者の精子中では均衡型が80%前後に見られますが、女性保因者の卵子中では均衡型と不均衡型が50%前後と同等である(参考文献1)ことから、女性が転座を持つ場合は流産に結びつきやすいことが考えられます。
PGT-Aの結果は胚診断指針に基づきA判定~D判定の4つに分類されます。
・判定 A:常染色体が正倍数性(均衡型転座を含む)である胚
・判定 B:常染色体の数的あるいは構造的異常を有する細胞と常染色体が正倍数性細胞とのモザイクである胚
・判定 C:常染色体の異数性もしくは構造異常(不均衡型構造異常など)を有する胚
・判定 D:解析結果の判定が不能な胚
※ モザイク等についての詳細はPGT-Aをご覧ください
PGT-SRの結果には性別の情報である性染色体も解析されますが、通常は実施施設にも開示されません。ただし、性染色体に何らかの異常が認められた場合は実施施設に知らされ、臨床遺伝専門医が必要と判断した場合に限り遺伝カウンセリングの下、開示されることもあります。
ご夫婦のいずれかに染色体の構造異常が認められた場合、妊娠や流産の既往がなくても、自然妊娠で流産を反復していた場合でもPGT-SRを受けることができます。しかし、PGT-SRを受けるためには体外受精が必要となり、女性の身体的負担や高額な治療費への経済的負担は増えることになります。PGT-SRを実施することで、流産率の低減やお子様を授かるまでの時間短縮につながることは考えられますが、最終的な生児獲得率が上昇するかは明らかではありません。
お申込み後の流れは、以下のようになります。
当院ではPGT-SRについて疑問や不安、結果の意味が良くわからない、モザイク胚の移植への迷い、PGT-SR後の胚で妊娠し出生前検査について迷う時などの相談に応じています。
遺伝カウンセリングはオンラインで対応していますので、他院や遠方の方でもご自宅から利用することができます。予約の詳細につきましては受付にお問い合わせください。
※ 詳細は遺伝カウンセリング(こちら)をご覧ください
参考文献
1) Gardner,R.J.Mckinlay and Amor,David J. Gardner and Sutherland’s. Chromosome Abnormalities and Genetic Counseling 5th, edition. Oxford University Press.
2) Elkarhat Z, Kindil Z, Zarouf L et al; Chromosome abnormalities in couples with recurrent spontaneous miscarriage: a 21-year retrospective study, a report of a novel insertion, and a literature review. J Assist Reprod Genet. 2019;36:499-507
診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
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