論文紹介 2019.03.26
不妊治療で通院中に、超音波検査で子宮内膜の厚さ(内膜厚)を測定している事をご存知でしょうか。内膜厚は着床し易さに影響する重要な因子で、超音波検査をする際は必ず測定させていただいています。胚移植の際に内膜が薄く、悩んでいる方もいらっしゃるかと思います。今回は胚移植の際の内膜厚と臨床成績の関連を分析した論文について紹介させていただきます。
The impact of a thin endometrial lining on fresh and frozen-thaw IVF outcomes: an analysis of over 40 000 embryo transfers.
「薄い子宮内膜が新鮮胚移植、融解胚移植に与える影響:4万周期以上の胚移植の分析」
Human Reproduction, Vol.33, No.10 pp. 1883–1888, 2018
【方法】
カナダではすべてのIVF治療周期がCanadian ART Registry (CARTR)に登録されており、ほぼすべてのIVFデータを得ることが可能です。CARTR に登録されている2013年1月1日〜2015年12月31日までの自己卵あるいはドナー卵による新鮮胚移植、凍結融解胚移植のデータを抽出し、内膜厚と臨床成績の関係を分析しました(後ろ向きコホート研究)。内膜厚は植新鮮胚移植周期ではトリガー時、凍結融解胚移植周期ではプロゲステロン開始前、もしくはLHサージ出現前に測定した値を分析に用いました。内膜厚は8mm以上、7-7.9mm、6-6.9mm、5-5.9mm、4-4.9mmおよび4mm未満の6つに分類しました。超音波にて胎嚢を確認したものを臨床的妊娠とし、それぞれの内膜厚での移植周期当たりの妊娠率、流産率、出生率を分析しました。
【結果】
表1 新鮮胚移植での臨床成績
②続いて新鮮胚移植周期の分析結果です(18,942周期)。
表2 融解胚移植での臨床成績
【考察】
本研究は、内膜厚が治療成績に与える影響を検討した研究としては過去最大の規模である。新鮮胚移植では8mm未満、凍結融解胚移植では7mm未満で有意に妊娠率と生産率が低下しました。これまでの報告は、前向き研究と後ろ向き研究の混在や、内膜が薄いことを定義するためのカットオフ値が異なること、また、内膜厚7mm以下での移植のデータがほとんど存在しないことが問題とされてきました。ただし、本研究にもいくつかの問題点があります。ほとんどの移植(96%)は内膜厚7mm以上で施行されており、7mm未満での移植はわずか1200件しか含まれていませんでした(統計学的有意差が出にくい)。内膜厚7mm未満での、さらなる大規模研究による結果が待たれます。内膜厚に関係なく移植する前向き研究が必要と考えられますが、それは患者さんと臨床医師の同意を得るのは難しいかもしれません。
【結論】
妊娠率、生産率は内膜厚が新鮮胚移植で8mm未満、融解胚移植では7mm未満で1mm減るごとに低下しました。にもかかわらず、妊娠率は低下するが4〜6mmの内膜でも妊娠が可能なことが示されました。
【コメント】
今回の論文から分かるように、やはり内膜厚は7mm~8mm以上が望ましいと考えられます。ただし、周期数は少ないですが、融解胚移植での内膜厚4.0〜4.9mmでも生産率21.2%と報告されており、薄い子宮内膜でも胚移植可能である場合があることが判明しました。これは薄い子宮内膜であっても機能的に問題がなければ十分に胚受容能が備わっていることを意味します。しかしながら、これを客観的に検査する方法はまだありません。現在広く行われている子宮内膜受容能検査(ERA)が進歩すれば可能となる日が来るかもしれません。当院では自然周期、排卵誘発(採卵)周期など様々な周期で内膜厚を測定し、実際の融解胚移植時にはその結果を参考に子宮内膜調節(ホルモン剤投与など)を行っています。子宮内膜の発育には個人差はあるので、一人一人に合った方法を、相談しながら進めていくことが大切だと考えます。
仙台医師部 長浦
診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
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