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医療コラム

論文紹介 2019.05.28

慢性子宮内膜炎の検査方法と診断精度について

#1 Correlation between hysteroscopy findings and chronic endometritis.

Song D., et al. Fertil Steril. 114, 772-779, 2019.

 

#2 The diagnosis of chronic endometritis in infertile asymptomatic women: a comparative study of histology, microbital cultures, hysteroscopy, and molecular microbiology.

Moreno I., et al. Am J Obstet Gynecol. S1553-4650(19)30116-5, 2019.

 

慢性子宮内膜炎が反復着床不全へ及ぼす影響については、当院HP論文紹介(2017年12月27日)で概説しました。

慢性子宮内膜炎が反復着床不全と反復流産の原因となることを多くの論文が示しています。

慢性子宮内膜炎の治療が妊娠成績の改善につながることは間違いありませんが、慢性子宮内膜炎の最適な診断方法、診断基準については未だに議論されている所です。

慢性子宮内膜炎の診断は従来法である子宮鏡所見、CD138陽性細胞の有無(組織学的検査)、子宮内微生物培養検査により行われていました。

最近では感染性慢性子宮内膜炎の原因菌の有無を、次世代シークエンサーを用いて検索するmolecular microbiology(当院ではALICE検査)も行われています。

今回の論文紹介では従来の子宮鏡、CD138陽性細胞による慢性子宮内膜炎の診断精度(#1)、従来法とmolecular microbiologyの診断精度(#2)に関する論文を紹介します。

 

#1 Correlation between hysteroscopy findings and chronic endometritis.

【対象と方法】

原発性不妊症、続発性不妊症、反復着床不全、反復流産、不正性器出血、超音波異常などで子宮鏡検査を実施した1,189症例を対象とした。子宮鏡検査での慢性子宮内膜炎所見とCD138陽性細胞の有無の一致率、子宮鏡検査の診断精度を検討した。

【結果】

  • CD138陽性細胞(1個以上/10HPF)検出率は1%(322/1,189症例)であった。
  • 慢性子宮内膜炎の子宮鏡所見である子宮内膜充血はCD138陽性症例当たり5%(169/322症例)、子宮内膜間質浮腫は8.4%(27/322症例)、マイクロポリープは3.4%(11/322症例)に認められた。
  • しかし、子宮鏡検査所見の観察者間の一致率(κ値)はマイクロポリープ、子宮内膜充血、子宮内膜間質浮腫でそれぞれ88、0.89、0.52であった。
  • 子宮鏡検査による臨床診断は筋層内子宮筋腫4%(17症例)、粘膜下子宮筋腫1.9%(22症例)、先天性子宮奇形12.5%(149症例)、子宮内腔癒着33.3%(396症例)、子宮内膜ポリープ16.5%(196症例)、妊娠産物遺残2.4%(29症例)、上記所見なし32%(380症例)、であった。
  • 上記で慢性子宮内膜炎所見を1つ以上認めた症例は筋層内子宮筋腫2%、粘膜下子宮筋腫36.4%、先天性子宮奇形38.4%、子宮内腔癒着32.8%、子宮内膜ポリープ42.8%、妊娠産物遺残53.3%、所見なし43.8%、であった。
  • 一方、CD138陽性細胞検出率は子宮鏡検査で所見無しで8%、子宮内膜充血で39.5%、マイクロポリープで53.5%、子宮内膜間質浮腫で51.9%、2種類以上の所見がある場合は64%あった。所見があった場合、何も所見がない場合に比べ、検出率は有意に高かった。
  • 子宮鏡検査の精度を検討したところ、感度(陽性を正しく判定する割合)3%、特異度(陰性を正しく判定する割合)79.7%、陽性的中率(検査で陽性になった患者で、実際に慢性子宮内膜炎であった患者の割合)42.1%、陰性的中率(検査で陰性になった患者で、実際に慢性子宮内膜炎でなかった患者の割合)82.8%、診断精度66.9%であった。

 

【結論】

子宮鏡所見による慢性子宮内膜炎の診断精度は67%に過ぎず、慢性子宮内膜炎の診断方法として組織学的検査に代わるものではない。

 

 

それでは#2はどうでしょうか?

#2 The diagnosis of chronic endometritis in infertile asymptomatic women: a comparative study of histology, microbital cultures, hysteroscopy, and molecular microbiology.

 

【対象と方法】

慢性子宮内膜炎検査を行った21〜53歳の不妊症患者、103症例を対象とした。これらの症例の中で従来法(CD138陽性細胞の有無、子宮鏡検査、子宮内微生物培養検査)とmolecular microbiology(次世代シークエンサーによる病原性微生物の解析)を実施した65名について従来法とmolecular microbiologyの診断精度を検討した。

【結果】

  • molecular microbiologyとCD138による診断の一致は30症例(共に陽性14症例、共に陰性16症例、一致正診率5%)。
  • molecular microbiologyと子宮鏡検査による診断の一致は38症例(共に陽性37症例、共に陰性1症例、一致正診率5%)。
  • molecular microbiologyと子宮内微生物培養検査による診断の一致は37症例(共に陽性22症例、共に陰性15症例、一致正診率9%)。
  • CD138、子宮鏡検査による診断の一致は27症例(4%)、CD138、子宮鏡検査、子宮内微生物培養検査による診断の一致はわずか13症例(20%)であった。
  • 上記の13症例中molecular microbiologyで10症例陽性で診断精度は9%であった。

 

Molecular microbiologyと従来法の診断精度のまとめは個のこの様になります。

用語の解説

Histology:CD138陽性細胞による診断。

Hysteroscopy:子宮鏡検査。
Microbial culture: 子宮内微生物培養検査。

Sensitivity: 感度(陽性を正しく判定する割合)。

Specificity: 特異度(陰性を正しく判定する割合)。

Accuracy: 正診率(ここではmolecular microbiologyとの一致率)。

PPV: 陽性的中率(ここでは検査で陽性であった患者で、molecular microbiologyで慢性子宮内膜炎であった患者の割合)。

NPV:陰性的中率(ここでは検査で陰性であった患者で、molecular microbiologyで慢性子宮内膜炎でなかった患者の割合)。

FPR: 偽陽性率(検査で誤って陽性と診断した患者の割合)。

FNR: 偽陰性率(検査で誤って陰性と診断した患者の割合)。

 

【結論】

Molecular microbiologyによる慢性子宮内膜炎の診断は迅速に安価に行うことが出来(日本とは状況が違うようです)、Microbial cultureでは検出不可能な原因微生物を検索することが可能である。従来法も3つの検査を行うことで76.9%の慢性子宮内膜炎を改善できる機会を得ることが出来る。

 

【解説】

#1は病理学的検索による慢性子宮内膜炎診断の有用性を強調しています。

筆者らは、子宮鏡検査はCD138陽性細胞による慢性子宮内膜炎の診断に代わるものではない、としています。

しかし、子宮鏡検査でも90%以上の診断精度があるとする研究も多く報告されています。

また、CD138陽性細胞による慢性子宮内膜炎の診断基準が統一されていないこと、

出産を経験している女性でも一定の割合でCD138陽性細胞を認めることを考えると、

1つの検査で結論を出すのではなく、これまでの治療経過、妊娠歴、子宮鏡検査所見を組み合わせて総合的に診断し、治療を行うことが適切であると考えます。子宮鏡検査で所見無し、とされたのはわずか32%であり、着床不全、反復流産の原因となり得る何らかの疾患が認められていることは、非常に重要な意味を持ちます。

#1は近年開発されたmolecular microbiologyと従来法での慢性子宮内膜炎診断の一致率を検討した研究です。

この研究結果では従来法個々の検査では診断精度があまり高くなく、従来法3種の検査を組み合わせることで診断精度が向上し、特異度、陽性的中率がmolecular microbiologyによる診断と同等となることを示しています。

しかし、この研究結果はあくまでもmolecular microbiologyと比較した結果で有る事に留意する必要があります。

molecular microbiologyは始まったばかりの検査ですが、今後多くの医療機関で実施され、有用なエビデンス(診断・治療に関する有用性の評価)が蓄積されると考えています。当院でもALICE検査(子宮内-フローラ検査であるEMMA検査と同時に実施)を行っております。

慢性子宮内膜炎の診断には、それぞれの検査のメリットを活かして、それを組み合わせることが重要です。

「木を見て森を見ず」に陥らず、「木も見て森も見る」ことは、慢性子宮内膜炎の診断に限らず、不妊診療を行う上で常に心に留めておくべき事です。

 

仙台院長 五十嵐 秀樹


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