学会報告 2019.08.13
先日8月1-2日に、第37回日本受精着床学会が東京・新宿で開催されました。
当院からは合計10名のスタッフが参加し、様々な演題を口頭発表して参りました。
今回は妊孕性温存についての当院からの発表の一部を紹介したいと思います。
「卵巣組織凍結における標準的な凍結方法と新たな研究について」は以下から確認いただけます。
http://203.183.146.49/column/post-1902
各演題の紹介をする前に当院の取り組みの基本的な概要について、簡単に説明致します。
京野アートクリニックグループは現在、仙台・高輪・盛岡院にクリニックがあり、
卵巣組織施設として、品川にHOPE(卵巣組織凍結保存センター)があります。
当院では、精子凍結、卵子・受精卵・卵巣組織凍結の全てが提供可能であり、
医療連携することによって、他院での卵巣凍結希望患者さんの受け入れも行っております。
日本には卵子凍結が可能な施設は100施設ありますが、卵巣組織が実施可能な施設は41施設となり、
全国約20県においては県内に卵巣組織凍結が実施可能な施設がないため、
地理的な理由で選べる治療の選択肢が違っているという状況があるのです。
前述の「卵巣組織凍結における標準的な凍結方法と新たな研究について」でも紹介していますが、
卵巣組織凍結は現在、緩慢凍結法と言われる特殊な凍結方法が必要とされているため、どこでもできる技術ではありません。
こうした課題は、妊孕性温存の先進国であるヨーロッパにおいても同様にあり、
彼らは、
という方法によって解決しています。
この方法を初めに採用したのがデンマークであることから、Danish Modelなどと呼ばれています。
当院ではこのDanishModelに倣い、HOPE(日本卵巣組織凍結保存センター)を設立いたしました。
ここからは、第37回受精着床学会で紹介した演題について紹介して参ります。
先述の通り、当院ではDanishModelを採用した妊孕性温存を実施しています。
この演題では、実際に当院で実施した卵巣組織凍結並びに摘出卵巣組織からの未成熟卵子の体外成熟培養(IVM)について紹介しています。
IVMというのは、まだ成熟途中にある卵子を採取して、体外で成熟した卵子になるように育てる特殊な技術です。
この技術を活用することによって、卵巣組織凍結に加え、卵子凍結もできるようになれば、
患者さんにとっての妊娠する方法や可能性は広がっていくことになります。
摘出した卵巣をHOPEへ運ぶためには2種類の搬送パターンがあります。
近郊・短時間の搬送の場合には、室温にて搬送した後に卵巣の表面にある未成熟卵子を採取し、体外にて培養することで卵子凍結も実施します。
これによって、より多くの妊孕能を温存することができると考えています。
遠距離・長時間の搬送となる場合には、4℃にて搬送します。
当院の過去の研究でも約20時間の搬送であっても、卵巣機能が維持されることが確認されているほか、
同様のDanishModelを採用している欧州からは24時間以内の搬送での卵巣機能の保持が報告されています。
なお、この場合、IVMは実施することができません。
当院での成績について、抄録から抜粋して紹介します。
❝2016 年 11 月より 2019 年 2 月まで 11 例の卵巣凍結を実施した。
平均年齢 33.4 ± 7.6 歳。
原疾患の内訳は乳がん8例、血液疾患2例、その他1例であった。
搬送時間は1-19時間であった。
摘出された卵巣組織の髄質を除去し、8 × 4 × 1mm の皮質切片を緩慢凍結法にて凍結した。平均凍結切片数は 22.8 ± 8.6 枚、組織検査による原始卵胞密度、
viability test (卵巣組織内の生存している卵胞の有無を確認するテスト)を調べ、全例に生存卵胞を認めたが、悪性腫瘍細胞は認めなかった。
30 個の未成熟卵子に IVM を実施し、14個 MII 卵子を凍結した(成熟率 46.7%)。
凍結設備や凍結専門技師不在の病院であっても、連携した内視鏡専門施設あるいはがん治療施設で摘出した卵巣組織を搬送して HOPE で凍結保存する本システムを利用することで新たな労力・費用を生むことなく、効率よく安全に妊孕性温存を行えることが示唆された❞
まだ、凍結卵巣組織の融解移植まで至っていないものの、成功例の多いモデルを採用した卵巣組織凍結を実践していることを、報告させていただきました。
今後、患者さんががん治療後に移植、妊娠、出産という報告ができればと思っております。
上記のDanish Modelと関係していますが、当院では2016年11月にHOPEを設立いたしました。
技術的(ハード面)にはすぐにでも卵巣組織凍結の実施はできるようになったものの、
妊孕性温存の依頼は数多くあっても、思いのほか卵巣組織凍結の実施には至りませんでした。
そこには、患者さんが持っている情報の不足を原因としたソフト面での課題があるように当院では考えていました。
このように患者さんが抱える不安は大きく、情報は乏しく、時間は短いという状況でした。
妊娠する力がなくなるかもしれないという宣告を受け、不安は大きくなり、強すぎる程の挙児希望をもって来られます。
このような状態で患者さん自身が納得のいく意思決定をするのは困難です。
そのため当院では、患者さんの問合せ後に、相談員がメールや電話、ビデオチャットを用いた事前情報提供を行う事によって、
患者さん自身が理解・納得して、自分らしい意思決定ができるような対応を実施いたしました。
実際にこちらの演題では15例の症例を報告させていただきましたが、
そのうち9例が問合せ当初は卵子凍結を希望していました。
情報提供後に、ご自身で熟慮され、卵巣組織凍結を選択されました。
妊孕性温存は治療の過程で、妊孕能が喪失せずに残っている場合、自然妊娠する可能性もあり得ますので、
必ずしも温存した卵子・受精卵・卵巣組織・精子を使わないということもありますし、使って妊娠できる場合もあれば、妊娠できない場合もあります。
そうした不確かさの中であっても、患者さんが判断しうるだけの情報をしっかりと提供し、
ご自身で納得して意思決定をすることは、治療後の人生の質(Quality of life)に影響してくるものと考えております。
女性の妊孕性温存について、日本癌治療学会が発行している
において、受精卵凍結が最も推奨されており、その後卵子凍結と卵巣凍結は同等の推奨度とされています。
特に白血病や悪性リンパ腫などの血液疾患などの場合には、卵巣組織への病気の転移の可能性があるため、
卵巣組織凍結にはやや慎重であり、卵子凍結が推奨されています。
当院で初めて経験した急性リンパ性白血病(ALL)患者さんの妊孕性温存、そしてその後の第一子妊娠出産、第二子妊娠継続について症例報告をいたしました。
この患者さんのケースでは化学療法中に成熟卵子 10個をガラス化法で凍結保存しました。
5 年後、12 年後に凍結卵子を融解、顕微授精 による受精卵を移植し、1 健児を出産されました。
そして現在、2 児目を妊娠継続中です。
様々な文献を調べてもこのような例は非常に稀なケースであると考えられます。
というのも、融解卵子 1 個あたりの妊娠率は 5 -6%と言われています。
単純な計算では、15-20個が1人の妊娠・出産のために必要になります。
また、卵子凍結の場合、施設によって凍結技術のばらつきがあり、融解後の生存率に差があるとも言われています。
今回のケースでは、 20 歳時に凍結した 10 個の卵子は融解後 100% (10/10)生存し、
1 児出産、1 児妊娠継続、さらに 2 個の day3 胚を凍結保存中です。
これにより、若い時期に凍結した卵子は、従来、報告されているより高い生存率、妊娠・
生産率が期待できることが示唆されました。
これから益々妊孕性温存は注目をされていくと思いますが、患者さん中心に考え、
より安心で安全、そしてレベルの高い医療が提供できるよう、スタッフ一同努力して参ります。
診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
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