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医療コラム

論文紹介 2019.09.03

男性の加齢と精子のDNA断片化率の関係 第2校

女性の加齢は不妊につながるというのは一般的に知られていることです。

ほとんどすべての女性で、45歳を超えると妊娠する確率は限りなく低くなってきます。

一方で男性はどうでしょうか。60代、70代であっても自然妊娠でお子様を授かる方の話を聞くこともあります。

また、仮に精液所見が多少不良であっても精子が認められれば不妊治療は可能ですし、それで妊娠につながることも散見されます。では男性の加齢は妊娠に影響がないのでしょうか。

様々な報告では男性の年齢が40歳を超えると生殖の効率が下がるといわれています。

これは精子の質が下がってしまうことが原因と考えられていますが、精子の質とは一体何でしょう。

最近のトピックスとして精子の質を表すパラメータの一つに精子のDNA断片化率(DFI)があげられます。

DFIが高い場合、不妊治療の成績は下がり、不妊治療に必要な期間が長くなるとされています。

DFIを上げるものとして精索静脈瘤、尿路感染症などが報告されています。

特に精索静脈瘤の影響は大きく、手術で治療することによって精液所見だけでなくDFIも改善するといわれます。

前回の高輪培養部のコラムで精子のDNA断片化のタイプが顕微授精の成績に与える影響について書いておりますので、よろしければ参照ください。

 

http://203.183.146.49/column/post-1977/

 

今回は男性の加齢が精子のDFIに対しどのような影響を与えるのかについて紹介します。

 

今回引用する論文はポーランドのポメラニアン大学から発表されたものです。

1124人の男性の精液検査を行い、40歳以上(222人)と40歳未満(902人)でグループ分けし、

一般的な精液検査のパラメータ(精液量、濃度、運動率、正常形態率等)に加え、精子の生存率、DFIなどを比較した上でさらに、精液検査が正常な患者と不良な患者でわけて同様の検討をしています。

まず全体に比較で40歳以上と40歳未満の群で有意差が出たのは「精液の量」、「非前進運動精子の割合」、「DFI」の3つだけでした。精子濃度、運動率、正常形態率、精子の生存率などは差を認めませんでした。

次に精液検査が不良な患者のみで年齢による有意差があったのも同じ項目でした。

精液検査が正常な患者のみの比較では正常形態率にも有意差を認めましたが、いずれにせよ精液所見の正常・不良にかかわらず、年齢による精液所見(精子の見た目)の変化はかなり少ないといってよいと考えます。

しかし、大切なポイントである精子の質を現すDFIにおいて年齢による有意差が出たということが今回のテーマのポイントになります。

 

ではDFIの差に目を向けてみましょう。この論文ではDFIが10%以上を異常としています。(論文によって差がありますがDFIの境界値は10-30%程度とされています)

下のグラフのように、精液検査の正常・不良ともに、40歳未満ではDFIの正常率は45%程度、40歳以上では25%程度となっています。

これは精液検査の結果にかかわらず加齢によってDFIが上昇することを示唆しています。

この論文ではやはり他の研究でも同様の結果が出たと記していました。

今回の検討で男性の加齢に伴う妊娠率を下げる因子の具体的なデータが報告されました。

年齢が高めで他の病院などでなかなか不妊治療の結果が出ない方は一度DFIの検査を行ってみるのもいいかもしれません。

DFIが高い場合の対策として、精索静脈瘤があれば手術を行うのが有効だと考えます。

そうでなくても高DFIの精子ではIVFよりもICSIのほうが成績が良いという報告もあります。

それでもうまくいかない時には、精巣から直接精子を取ってくることでDFIの低い質の良い精子が回収でき、

ICSIの成績が上昇するという報告もあります。

当院ではDFIの測定も行っており、通常の顕微授精に加え、Piezo-ICSIや卵子活性化、精索静脈瘤手術、精巣内精子回収術にも対応しております。

近年の様々なデータを見ていくと、不妊治療はやはり女性だけでなくカップルで集学的治療を行うことで成績が上昇するという報告が年々増加しております。

女性の年齢だけが不妊の原因ではありません。男性も注意が必要です。

治療に行き詰っているかたや、年齢が気になる方など一度ご相談いただければと思います。

 

 

引用論文:Rosiak-gill A, Gill K, Jakubik J, Fraczek M, Patorski L, Gaczarzewicz D, et al.

Age-related changes in human sperm DNA integrity. 2019;11(15):5399–411.

 

医師部 泌尿器 田井俊宏


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