コラム 2019.10.01
不妊の原因検索を行い、見つかった原因を治療後あるいは原因不明不妊として、いよいよ妊娠に向けた治療が始まると、タイミング療法→人工授精→体外受精とステップアップして行くことになります。ここでは日々の診察室で原因不明不妊のご夫婦に話すステップアップの考え方をコラムとして紹介します。
現在の不妊治療ではタイミング療法6ヶ月、人工授精5~6回で妊娠しなければ、ステップアップを勧められます。それぞれに根拠があり、当院主催の妊活セミナーでも紹介しているデータを示します。妊娠を希望して1年目で妊娠できる方は84%、2年目で49%が妊娠され、3年目で14%が妊娠できる、との報告があります。不妊症の定義の中に「1年間以上の不妊期間」が含まれているため、不妊症と診断されたご夫婦は表の2年目の年間自然妊娠率である半分以下の期待値になり、不妊期間が長ければ期待できる自然妊娠率はさらに低いことになります。タイミング療法は不妊期間の長い原因不明不妊のご夫婦には勧められません。下のグラフに示すように不妊症と診断されたご夫婦のタイミング療法の妊娠率は極めて低いと報告されています。
次に人工授精による妊娠率の施行回数による推移を見ると5~6回で累積妊娠率が上昇しないプラトーの状態に達しているのが分かります。このデータにより人工授精を5-6回施行して妊娠していなければ体外受精へのステップアップを勧めることになります。原因不明不妊として治療していても、体外受精を行なってから初めて明らかになる不妊原因があります。例えば受精障害。精子と採卵した卵子を培養液の中で一緒にすると7割以上が受精しますが、その受精率が低い場合があります。このことは人工授精までの治療では女性体内の卵管内で起きる出来事のため認識することはできません。また最近分かってきた着床障害。これも体外受精を行なってできる良好受精卵を3回以上移植して着床しない場合に診断されるため、人工授精までの治療では診断できません。このような症例が含まれるために体外受精へのステップアップが勧められます。また、不妊治療は一方通行ではなりません。一度体外受精を行なってから人工授精に戻っても何ら問題ありません。実際に原因不明不妊の場合、体外受精の治療と次の治療の間に自然妊娠する症例も経験します。第1子を体外受精で出産し、第2子を自然妊娠される原因不明不妊のご夫婦もいらっしゃいます。卵管性不妊、子宮内膜症合併不妊や男性不妊とは異なり、原因不明不妊は体外受精でなければ妊娠できない、という確証はなく体外受精までステップアップすることになります。前述のように体外受精を行うことによって判明する不妊原因もあるためステップアップを勧められることになります。
しかし、治療法を選択するのはあくまで患者さんご夫婦です。医師からステップアップを勧められても、社会的、経済的または心情的理由によりステップアップを望まない場合は、その決定に沿った治療を行います。これは間違いではなく、ご夫婦で話し合った結論であれば正しいと考えます。この時に迷いなく結論を導くコツは、タイミング法であれ人工授精であれ、治療開始前に施行回数の目処をあらかじめご夫婦で決めておくことです。その目安が前述した根拠です。ご夫婦が医師から説明を受け納得して治療法を選択していくこと、が最も重要です。
盛岡院院長 熊谷仁
診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
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