学会報告 2019.10.24
市民公開講座が行われた10月8日の夜には、医療関係者向けの第8回妊孕性温存の講演会が開催されました。
今回はおよそ100名の方が参加され、会を重ねるごとに人数も中身もスケールが大きくなってきていることを肌で感じております。
今回はゲストスピーカーとして、
市民公開講座でも講演をいただいたM.Montag先生と
国立国際医療研究センター がん総合診療センター 副センター長の清水千佳子先生をお招きいたしました。
http://203.183.146.49/activities/announcement/post-2169
座長は、生殖医療および内視鏡の権威である山王病院の堤治院長にお受けいただきました。
さて、Montag先生のお話では、さすが世界の最先端ということを端々に感じるもので、
2017年には、年間のカウンセリング件数が約1200例、治療を実施したのが約850例ということで、
対象となる若年がん患者さんの6割程度が利用されているということでした。
累計の卵巣凍結実施数は4000症例を超えるとも言われていました。
かたや、日本においては未把握ではありますが、治療実施例も卵巣凍結においては年間に数十件あるかどうかというレベルと考えられています。
卵巣凍結も数百例ということで、世界のTOPに見習うべきポイントが多々あることを痛感致します。
FertiPROTEKTでは、ボン、エルラーゲン、デュッセルドルフの3か所に凍結保存センターを集約し、
そこに100か所以上の施設から卵巣組織を搬送(Transport)し、緩慢凍結法による卵巣凍結にて、大きな成果を上げています。
2017年のNewEnglandJournalでは130名と言われていた出産例も180例ほどまで急速に増えてきています。
その増加の大きな要因がこのFertiPROTEKTの活動です。
妊孕性温存は、温存実施から移植までの期間が一定以上あいてしまう特性がありますが、
2011年ごろから急激に温存件数が増えていることを考えると、
今後数年の間にあっという間に1000件の成功例は超えていくとの見通しを示されました。
そうしたこともあり、もはや実験的な治療ではないことを繰り返し強調されていました。
。
私達へのアドバイス(メッセージ)としては、
摘出⇒搬送⇒処理⇒凍結⇒融解⇒移植の全てのプロセスにおいて専門性が求められるため集約化は欠かせないという点でした。
そうした集約化、協力を徹底することがドイツでは徹底されているため、レジストリ(症例登録)が網羅されていて、
今後卵巣凍結を保険でカバーできるようにするなどの、
国の方針にまで影響を与えることができるようになっていることも強調されていました。
医療の質を高め、患者さんの負担の少ない治療を作るために一番必要な要素と考えられます。
座長は岩手医科大学産婦人科の馬場長(つかさ)主任教授にお受けいただきました。
馬場教授は、腫瘍の専門医でもあり、ロボット手術でもご高名な上、岩手でのネットワーク形成にも尽力されておられます。
そうした専門家、かつ当事者の視点からも質問もいただき、非常に活発なディスカッションをしていただきました。
さて、清水千佳子先生のお話のメインテーマの一つに「AYA支援チーム」というものがありました。
妊孕性温存のみならず、より広いテーマでAYA世代のがん患者さんを支援していくための他職種・多施設間の連携を推進されており、
統括するのが難しい東京というエリアでそうした活動をされているのはとても素晴らしいことだと思います。
同時にやはり妊孕性温存というのは、AYAがん支援の一部でしかないという側面と、
その一部にはMontag先生の話にもあるように、高い専門性が求められることから、
それぞれが独自で動くのではなく、今現在ないリソースは連携で補ったりするような発想が
今後欠かせなくなってくるというお話もされておりました。
この講演会は、2016年から開始しており、イスラエルのDror.Meirow先生、デンマークのCY.Andersen先生、
今回お招きしているMontag先生らをゲストとしてお招きして常に世界水準の技術や情報を参加者の方と共有して参りました。
次回はがん生殖医療学会やAYAがんの支援の在り方研究会学術集会がある2-3月に、土日などの休日に開催する予定でおります。
ぜひ医師のみならず看護師、心理士、ヘルスケアプロバイダーなど多くの方々と
情報共有していければと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします。
ご参加いただきました皆様、誠に有難うございました!
診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
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