論文紹介 2020.04.23
Roles of Vitamin D in Reproductive Systems and Assisted Reproductive Technology
Yilu Chen, and Xu Zhi
Endocrinology 2020 Apr 1;161(4)
PMID: 32067036 DOI: 10.1210/endocr/bqaa023
今回の論文は、ビタミンDがヒトの生殖機能と生殖補助医療(ART)成績に及ぼす影響に関して、これまでに発表された論文の結果をまとめて紹介しているMini-reviewです。今回は、特に女性に対する影響について、ご紹介させていただきます。
ビタミンDについて
ビタミンDは脂溶性ビタミンの一つで、体内での主な働きは、血中カルシウム濃度のコントロール(増加)であり、骨の代謝と深く関わっています。薬剤としても、骨粗鬆症の治療として、活性型ビタミンD製剤がしばしば使用されます。ビタミンDは食品から摂取されると共に、紫外線(UV-B)を浴びる事により皮膚でも合成されますので、日光浴をする事で自らの体内で作る事が可能です。近年、カルシウム代謝以外にも、細胞の分化やアポトーシス、免疫、炎症、インスリン抵抗性、癌との関連等多くの生理的な或いは病的な状態への関与がわかってきました。そして、その中には生殖機能も含まれています。
実際の機能を持つビタミンDは活性型ビタミンD(1,25(OH)2D)と呼ばれるカルシトリオールですが、体内のカルシウム充足の程度は、カルシジオール(25(OH)D)の血中濃度で判断されます。一般にカルシジオールの血中濃度が20ng/ml未満の場合をビタミンD欠乏状態、21-29ng/mlの場合をビタミンD不足、30ng/ml以上の場合を充足状態と考えます。しかし、実際の計測では20ng/mlを下回る事が多く、世界的にも摂取不足が懸念されているビタミンです。日本でも、女性の88%はビタミンD欠乏/不足者に該当し、2020年版の日本人の食事摂取基準策定の際の参照値としては20ng/mlを用いています。
ビタミンDと生殖に関わるホルモン
ビタミンDは各臓器・組織でその受容体(VDR)に結合して作用を発揮しますが、VDRは、卵巣・子宮内膜・卵管上皮・胎盤等、女性の生殖機能に関わる多くの臓器で認められます。動物の実験でもビタミンD欠乏状態は、生殖機能の低下につながり、その影響は仔の生殖機能にまでおよぶ事が報告されています。ビタミンDは生殖ホルモン分泌にも関与しており、卵胞ホルモンや黄体ホルモンといった、卵巣機能の中心をなし、妊娠にも必須のホルモン合成に重要な役割を果たしています。卵巣では、特に、卵胞を構成する主細胞の一つである顆粒膜細胞で、その排卵に向かっての増殖や分化を促すと考えられています。
ヒトの集団でも、血中のビタミンD濃度と血中の各種ホルモン濃度に関して、これまでに複数の検討が行われていますが、今のところその関連について一定の見解は得られていません。しかし、週に50,000IUのビタミンDを摂取した不妊女性の群では、血中AMH値の上昇を認めたとの報告(1)もあり、ビタミンD摂取が卵巣予備能改善に寄与する可能性が示唆されています。
ビタミンDとPCOS
排卵障害の一つである多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)については、その病態とビタミンDとの関連について特に多くの検討が為されていますが、いまだ結論は出ていません。しかし、ビタミンD摂取によって、PCOS患者の種々の所見(発育卵胞の数、代謝・内分泌状態、血糖値、炎症所見)において改善が見られたとの報告も得られており、今後の研究成果が待たれます。
ビタミンDとART成績
Table 2では、ART成績と女性の血中ビタミンD濃度との関連について、これまでに行われた研究についてまとめられています。ビタミンDが充足しているグループでは妊娠率が高い、との報告や、ビタミンD欠乏群では低い妊娠率を認める等のビタミンDの重要性を肯定する報告もある一方で、比較的調査数が多い報告でも、妊娠率とは関係無かったとするものもあり様々ですが、最近行われた、11のコホート研究を含むメタアナライシス(2)では、女性の血中ビタミンD濃度はART成績と関連があると結論しており、ARTにより妊娠を考える女性にビタミンDの不足/欠乏がある場合には、その改善が重要であるとしています。
これまでの研究から、ビタミンDは生理的な生殖機能にとって必須であり、PCOSの病態やART成績と関連があると考えられますが、相反する結果を示す報告も存在し、今後、その作用機序を含めた更なる研究の進展が期待されます。
最後に
生殖機能に限らず、ビタミンDは全身的な健康の維持に重要なビタミンですので、その充分な摂取を心がけてください。日光浴により体内で作り出すことも可能なビタミンではありますが、現代生活の中での日光浴は必ずしも容易ではなく、また、メリットばかりではないことを考えると、食品またはサプリメントでの摂取が有効な手段になると考えられます。
参考文献
医師部 岸裕司
診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
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