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医療コラム

論文紹介 2020.05.01

論文紹介 睡眠と妊孕性について

先週に引き続き、今週も高輪院の岸裕司先生に興味深い論文を紹介していただきます。

岸裕司(きしゆうじ)先生

東京慈恵会医科大学附属病院 産婦人科 准教授
日本産科婦人科学会 専門医
日本生殖医学会 生殖医療専門医
臨床遺伝専門医
内分泌代謝科(産婦人科)専門医

 

Female sleep patterns, shift work, and fecundability in a North American preconception cohort study.

Willis SK, Hatch EE, Wesselink AK, Rothman KJ, Mikkelsen EM, Wise LA.

Fertil Steril. 2019 Jun;111(6):1201-1210.e1. doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.01.037. Epub 2019 Apr 12.

PMID: 30987736

 

今回ご紹介する論文は、北米の女性について、睡眠時間と睡眠障害、また、シフト制勤務および夜勤が妊孕性に及ぼす影響について調べてものとなります。

睡眠は、最近、一般的にもますます注目を集めている分野であり、様々な改善の方法や、電子デバイスなども登場してきています。

また、日本人は諸外国に比べ、睡眠時間が短いことが報告されています。

 

  1. 背景

  • 睡眠と妊孕性

この研究は北米女性での研究ですが、北米の閉経前女性ではおよそ30-32%が平均睡眠時間7時間未満であり、24%に睡眠障害を認めているとのことです。ちなみに、総務省が平成28年に日本で調べたデータでは日本人の平均的な睡眠時間は7時間40分とのことでした。睡眠障害は一般に男性より女性に多いとされており、原因として、生殖ホルモンの変動がその原因とも考えられています。これまで、睡眠の問題は心臓病、肥満、糖尿病そして、死亡率を増やす等の報告があり、これらのリスクは睡眠時間7-8時間で最もリスクが低いと言われています。

動物実験では、生活リズムの障害は生殖機能の低下につながると報告されていますが、ヒトで、睡眠と妊娠の関連についての研究は多くはありません。これまでに、睡眠障害を持つ女性では、不妊のリスクがあがるとの報告や、不妊女性で睡眠障害と卵巣予備能低下との関連があった、との報告などがあります。また、IVF治療を受けている女性で、採卵数と睡眠時間に関連があった、との報告もあります。

 

  • 勤務形態と妊孕性

女性の勤務形態について、シフト制勤務と妊孕性低下との間にわずかな関連を認めたとする報告や、シフト制勤務で働いている女性で妊娠成立までの期間にわずかな延長が認められたとする報告などがあります。夜勤との関連では、妊孕性のわずかな低下を認めたとする報告と、僅かに妊孕性の改善を認めたとする報告とがあり、相反する結果となっています。

 

  1. 研究方法

  • 対象

今回の研究は、北米の妊娠を考えている女性を対象とし、オンラインでの質問により行われたコホート研究(Pregnancy Study Online (PRESTO))です。対象は、北米在住の21-45歳の女性で、避妊や不妊治療を受けていない方となっています。これらの女性に、オンラインで質問表に答えてもらう形でデータが収集されています。研究にエントリーした後は、8週毎にフォローアップが行われ、妊娠が成立するか、不妊治療の開始、妊娠の断念或いは12ヶ月が経過するまで継続されました。研究は2013年5月から2018年9月まで行われ8,772名の女性が参加しました。ここから、研究開始時点で半年以上月経が来ていない女性や、既に半年以上妊娠を試みている女性等を除外し、最終的には6,873人を対象に検討が行われています。

 

  • 評価項目
    • 睡眠時間

睡眠の長さについては、先月の平均の睡眠時間として 6時間未満, 6, 7, 8時間, 9時間以上に分けて、統計が行われました。

  • 睡眠障害

MDI(Major Depression Inventory :自己報告式の気分アンケート)上の質問が使用され、ここ2週間での睡眠障害の頻度を確認しました。

  • 勤務状態

シフト制勤務の有無と夜勤の有無について確認しています。

  • 妊孕性の評価は、最終月経から妊娠までの期間で評価しています。
  • その他の評価項目

年齢、身長、体重、人種、収入、就業状態、教育、婚姻状態、喫煙、マリファナの使用、飲酒、カフェイン消費、性交回数、避妊歴、妊娠歴、ストレスに関する質問(PSS-10)、不安神経症の既往、MDIによるうつ状態の評価、精神科疾患の既往

 

  • 統計

比例回帰分析を使用しています。結果は受胎確率比(fecundability ratios: FRs)として表示されています。周期毎の妊娠確率の平均であるFRが1を下回る場合、妊娠に至るまでの期間がその条件では長くなることを意味します。

最終的な結果は、様々な交絡因子(妊娠に影響を及ぼす可能性のある、睡眠以外の因子)の影響を考慮し、調整されました。

メンタルヘルスの状態は、不安またはうつ病の履歴(はいvsいいえ)、現在のうつ症状(MDI <15 または ≧15)、および現在認識されているストレス(PSS-10スコア:<20または≧20)によって層別化されています。

 

  1. 結果:

  • 概要

6,873名の参加者の26,339月経周期の中で3,933の妊娠が観察されました。妊娠に至らなかった参加者のうち、359名は現在もデータ収集中。168名は妊娠を断念。522名は不妊治療を開始しています。947名はfollow-upからはずれ、944名が12周期を完遂しました。

妊娠までに要した期間は、25, 50, 75%群でそれぞれ2, 4, 6周期でした。睡眠時間については、6時間未満が6%、9時間以上が6%。33%に睡眠障害がなく、47%は半分以下の頻度で睡眠障害がありました。20%は半分以上の頻度で睡眠障害があった。12ヶ月の時点での累積妊娠率は、睡眠障害が半分以上、半分以下、無し、の群でそれぞれ、64%, 70%, 76%だった。睡眠時間と累積妊娠率との比較では、睡眠時間 6時間未満, 6, 7, 8時間, 9時間以上で、それぞれ、62、67、73、73,66%でした。

 

  • 睡眠と妊孕性

8時間の睡眠(これを標準としています)に比べ、6時間未満の睡眠ではわずかな妊孕性の低下(FR 0.89: 95% CI 0.75-1.06)が確認されました。睡眠障害はその頻度と関連して妊娠に影響し、半分以上の頻度で睡眠障害を持つ女性のFRは0.87 (95% CI, 0.79-0.95:CIは95%信頼域を示し、この数字が1をまたいでいない場合には、統計上意味のある差がある、と判定されます)と有意に妊孕性の低下を認め、半分以下の夜に睡眠障害を持つ場合でのFR 0.93 (95% CI, 0.88-1.00)と比べても高い結果でした。

不安神経症やうつ病の既往のある女性、MDIやPSS-10スコアの高い女性でも、睡眠時間については、それ以外の女性と似た傾向でしたが、MDIやPSS-10スコアの高い女性では、睡眠障害の確率が高い傾向にありました。この群で睡眠障害の妊孕性への影響は、睡眠障害が半分以上の夜に認められる場合には、有意差を持って妊孕性を低下させる、との結果となっています(FR 0.72, 0.73: 95% CI, 0.58-0.9, 0.6-0.89)。

  • 勤務形態と妊孕性

シフト制勤務や夜勤は妊孕性に明らかな影響を及ぼしませんでした。

 

  1. まとめ

今回の結果からは、睡眠障害を持つ女性では中等度の妊孕性の低下を認めています。また、睡眠時間については、睡眠時間が短くなった場合に、軽度ではありますが、妊孕性が低下する傾向を認めました。今回の研究では、シフト制勤務や夜勤については、妊孕性への影響は認められませんでした。

単に良い睡眠をとると言っても、簡単ではないこともしばしばではありますが、健康な睡眠が妊娠の成立にも良い影響を及ぼす事が考えられる結果となりました。


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