論文紹介 2020.05.09
Glycemic load, dietary fiber, and added sugar and fecundability in 2 preconception cohorts.
Willis SK, Wise LA, Wesselink AK, Rothman KJ, Mikkelsen EM, Tucker KL, Trolle E, Hatch EE.
Am J Clin Nutr. 2020 Jan 4:nqz312. doi: 10.1093/ajcn/nqz312. Online ahead of print.
PMID: 31901163
今回ご紹介する論文は、前回ご紹介した、睡眠時間と妊孕性との関連について検討されたものと同じ、北米の女性を対象にオンラインの質問票によって行われたPRESTO研究(Pregnancy Study Online)と、同様にデンマークで行われたSnart Foraeldre研究からのものです。
健康のために食生活は重要であり、これに関する検討もこれまでに数多く行われています。食事と妊孕性との関係についても多くの検討があり、摂取カロリーや食事の内容との関連についての複数の報告があります。女性の卵巣機能は栄養状態の影響を受けますが、特に極端な摂取カロリー不足による痩せでは、卵巣機能は大きく損なわれ、無月経となる事も稀ではありませんし、これに伴ってのホルモン欠乏により、長期的には骨粗鬆症の誘因ともなります。摂取カロリー過剰による肥満も、排卵障害を引き起こす可能性がありますが、一般にその影響は痩せに比べるとマイルドです。しかし、排卵障害の一つである多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の肥満患者さんでは、軽度の減量でも、排卵の回復に効果があると言われています。
今回の論文は、食事の糖質、食物繊維および添加された砂糖が妊孕性(妊娠しやすさ)にどの様に影響するかを検討したものです。
(ア)対象
Snart Foraeldre(SF)は2011年よりデンマークで、妊娠を考えているカップルを対象にオンラインの自己申告制質問票を用いて行われた研究です。参加者の年齢は18~45歳で、妊娠を考えてはいますが、これまでに不妊治療歴はない方達です。参加者は、食事に関わる質問(food-frequency questionnaire: SF-FFQ)にオンラインで回答しました。今回、6354名の参加者のうち、研究参加時点で既に半年以上無月経の方や、既に半年以上妊娠を試みている方等を除外し、最終的には2709名について検討を行っています。
PRESTO研究については前回ご紹介しておりますが、北米の女性を対象に、やはりオンラインの自己申告制質問票を使用した研究です。こちらの参加者の年齢は21~45歳で、使用された質問票はNational cancer institute’s Diet History Questionnaire II (DHQII)でした。こちからは最終的に4268名について検討されています。
(ア)食品について
質問票の回答をもとに、食品のグループ、栄養素摂取量等について計算しました。主な評価としてはGlycemic Load (GL)およびその2つの主要素である食物繊維と添加された砂糖について、妊孕性と関連を持つかを検討しました。それ以外にも、炭水化物に関して、全摂取量、Glycemic Index (GI)、そして、炭水化物/食物繊維比についても検討しました。
※食事のGL(glycemic load)とは
食事で摂取される炭水化物の質と量とを同時に示す指標です。例えば、血糖を緩やかに上昇させる食品が多くを占める食事内容であっても、摂取量が多ければ、食事のGLは高くなります。逆に、血糖を急激に上昇させる食品の摂取が多くを占める食生活の人であっても、摂取量が少ないと食事のGLは低くなります。
(イ)妊孕性について
妊孕性は前回の論文と同様、FRs(fecundability ratios)で表現されています。これは、標準となる集団に対しての1回の周期当たりの妊娠可能性を表します。FRが1を下回る場合、妊娠までの期間が標準より長くかかる事を意味します。
最終的な結果は、様々な因子(年齢、BMI、収入、教育、摂取カロリー、喫煙、妊娠歴、アルコール摂取、運動量、過去の避妊方法、性交頻度、マルチビタミン摂取、等々)の影響を考慮して調整されています。
2013年から2018年の間、SF参加者(2709名)は9609周期中に1818の妊娠を、PRESTO参加者(4268名)では、17390周期中に2652の妊娠を観察しました。
いずれの集団でも、GLが100以下の群に比べ、GLが141以上の群では僅かな妊孕性の低下を認めました(SFとPRESTOとで:FR 0.89と0.87, 95% CI 0.73-1.08と0.77-0.98)。SFでは全炭水化物摂取量と妊孕性との間には関連がありませんでしたが、PRESTOでは弱い負の相関を認めました(FR : 0.87; 95% CI 0.77-0.97)。いずれの集団でも、食物繊維の摂取量自体と妊孕性との間には相関を認めませんでしたが、炭水化物/食物繊維比が高い群では低い群にくらべ妊孕性の低下が認められました(SFとPRESTOとで:FR 0.86と0.85, 95% CI 0.73-1.01と0.78-0.92)。添加糖の摂取量が72g/日以上の群を27g/日以下の群と比べると、SFとPRESTOとで:FR 0.86と0.87, 95% CI 0.73-1.01と0.78-0.92となっており、添加糖の摂取量が多い群で妊孕性は低下していました。
今回の検討では、デンマークと北米の双方の集団において、GLが高い群では低い群と比べ僅かに妊孕性が低下しており、食事の内容を見た場合には、炭水化物/食物繊維比の増加と添加糖摂取量の増加が、それぞれ妊孕性の低下に、量に依存したパターンで寄与していました。
今回の結果は、食生活の大きく異なる日本人女性に、直ちに当てはめて考える事はできませんが、その内容を考える上で参考にはなります。食生活は自分自身で改善することが可能です。食物繊維を豊富に含む食品の摂取を増やし、人工的に添加された糖分の摂取を控える様心がけることが、妊娠に向けての健康状態の獲得に、善い影響をもたらしてくれる可能性が考えられます。
医師部 岸 裕司
診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
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