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医療コラム

コラム 2020.06.04

培養液の安全性について

今回は培養液の安全性に関してご紹介させていただきます。

ART(生殖医療補助技術)では、みなさまから卵子や精子をお預かりしたのち体外受精や顕微授精によって受精卵ができます。これらの操作や受精卵の成長の過程は体外で行います。そのため、受精卵の培養環境はできるだけ母体の環境に近づけることが理想とされています。

不妊治療のクリニックでは、温度やガス濃度を一定に保つ培養器(インキュベーター)や発育に必要な栄養素が含まれた培養液を使用することで受精卵にとって適切な培養環境を維持しています。

これらの培養液を初めとする培養環境については日々改良や安全性の検討がされています。

今回ご紹介する論文は2018年にオランダの研究機関から報告されました。

体外受精で生まれた9歳児を対象に、治療に用いた培養液が子供の認知発達に影響を与えるかどうかを調査した論文です。

No effect of IVF culture medium on cognitive development of 9-year-old children

Human Reproduction Open.Volume 2018, Issue4,2018,hoy018

H.Zandstra et al.,

先行研究で、2種類の異なる培養液で生まれた子の出生時の体重に差があることが明らかになりました。また、ARTが発育や認知発達に与える影響については諸説あり一定の見解が得られていないのが現状です。以上についてさらに明らかにするためにこの研究ではそれぞれのグループにおいて出生から9年後の認知発達能を追っています。認知発達能は年に2回実施されるテストの結果をもとに評価されました。さらに、このテストの全国平均とそれぞれの培養液を使用した場合の結果を比較することで、ARTにおける培養液の使用が認知発達に与える影響を検証しました。

結果は、2種類の異なる培養液で在胎週数、体重、自閉症、アレルギー、運動能力の有無などの基本的な項目に違いは見られませんでした。認知発達についても差は見られず、どちらの培養液でも全国平均に比べ認知発達のスコアは高い結果となりました。そのことから、ARTにおける培養液の使用は発育や認知発達などに影響は与えないことが明らかになりました。

当院で使用している培養液も、複数の比較検討を行い、より培養成績のよいものを採用しています。また、それぞれの培養液について各メーカーで出荷前に品質保証のテストが行われ、浸透圧、pH、エンドトキシンなどの品質が保証されています。

当院はISO 9001認証、JISART(日本生殖補助医療標準化機関)の認定ART施設です。当院ではさらに厳しい基準を設け培養液や機器の品質管理を行っております。また、当院での治療後出産に至った患者様に対して、お子様の出生時の状況(在胎週数、体重等)や成長過程の発育調査を行っており、ご協力いただいた患者様には、調査内容を公開させていただいております。

以上のように日々、環境や安全性の確立に努めており、みなさまが安心して治療できるよう徹底しております。

高輪 培養部 福岡由利子


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診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)

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