論文紹介 2020.08.10
今回はCOVID-19と精液所見への影響に関する速報がアメリカの生殖補助医療専門誌であるFertility and Sterilityで報告されましたので、ご紹介します。
この論文はドイツの大学から8月に発表されたものです。
Assessment of SARS-CoV-2 in human semen—a cohort study
Nora Holtmann, et al. Fertility and Sterility(Aug, 2020)
2019年から急速に感染拡大し、パンデミックに至った新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019: COVID-19)が精液所見にどのような影響を与えるのかについて調査しました。
COVID-19の主な感染経路は飛沫感染ですが、ウイルスのRNAは尿、糞便などからも検出されます。また、COVID-19はわれわれの細胞に発現しているACE2という酵素と強く結合することが分かっており、これが精巣にも発現していることから、精巣への感染及び精液中へのウイルスの混入の可能性が疑われていました。
本研究では、COVID-19感染者の精液中にウイルスRNAが存在しているか、またCOVID-19の感染が精液所見に影響するか検討しました。
対象はCOVID-19感染から回復した18名(症状がなくなってから平均32.7日後)とCOVID-19に感染中の2名、非感染が確認された14名(コントロール群)です。
また、感染から回復した方のうち、自宅療養が可能な方をMild群、入院し酸素投与が必要だった方をModerate群としています。
結果は、COVID-19に感染中または感染後の精液中にはウイルスRNAは検出されませんでした。精液所見については、Moderate群で精子濃度、運動精子数が有意に低下することが明らかとなりました。また、症状に発熱があると精液所見に負の影響があることも分かりました。
これらの結果については、COVID-19が造精機能に影響を及ぼすというより、発熱などの体調の悪化や治療に使用された薬剤による影響が考えられます。ただし、本研究ではサンプル数が少なく、感染中もしくは感染回復直後のデータが不足していることが課題となっています。
【COVID-19重症度別の精液所見】
【発熱の有無別の精液所見】
結論として、COVID-19回復から約1ヶ月後の精液中にCOVID-19は検出されず、症状が自宅療養が可能な状態(Mild群)であれば造精機能への影響も少ないことが示唆されました。一方で、入院や酸素投与が必要な状態(Moderate群)であっても、精液所見の低下は認められるものの、WHOが定める基準値の範囲内であったため、感染回復後約1ヶ月の期間を設ければ、男性の妊孕性や妊活には影響しない可能性が考えられます。
発熱による精液所見の悪化はCOVID-19だけでなく、通常の風邪などによる発熱でも一過性に起こることが知られています。そのため、精子を守るためにはCOVID-19感染予防だけでなく、日頃の体調管理も重要となってきます。
妊孕性とCOVID-19に関するエビデンスは現段階で十分とは言えませんが、当院では今後もCOVID-19と生殖補助医療に関わる情報をしっかりと収集し、皆様にご提示していきたいと思います。
仙台培養部
宮本 若葉
診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
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