コラム 2020.12.24
本日は卵子の活性化と顕微授精の補助的技術である人為的卵子活性化についてご説明致します。
〇卵子の活性化とは?
受精時に精子と卵子の細胞膜が融合すると、精子内の卵子活性化因子(PLCζ)が卵子内に放出されます。この卵子活性化因子は細胞内のカルシウム(Ca²⁺)貯蔵器官である小胞体に働きかけ、Ca²⁺を放出させます。Ca²⁺濃度の上昇は波のように周期的に起こるため、これをCa²⁺オシレーション(カルシウム変動)と呼びます。排卵された卵子は第二分裂中期(MⅡ)で停止していた状態ですが、このCa²⁺濃度の上昇が引き金となり卵子の減数分裂が再開します。この一連の流れを「卵子の活性化」と言います。
〇顕微授精(ICSI)での卵子活性化
ICSIでは精子を直接卵子の細胞質内に注入するため、精子と卵子の膜融合は省略されています。しかし、ICSIを行った卵子で活性化が起こらないかと言うと、そうではありません。ICSIでも精子の卵子活性化因子が卵子内に放出され、Ca²⁺オシレーションが起こります。つまり通常の受精と同様の活性化反応が起こると考えられています。
〇人為的活性化はどのような場合に行うの?
一般的に、ICSIを行ったときの受精率は、75~80%ほどですが、卵子または精子に問題があり、ICSIを行っても卵子が活性化せず、受精率が低い(30%以下)、もしくは全く受精しない方がいらっしゃいます。このような方には人為的卵子活性化処理を行うことで受精率が上昇する可能性があることが分かっています。人為的卵子活性化とは、特定の試薬を含んだ培養液に卵子を浸漬し、卵子内のCa²⁺濃度の上昇が起こるように補助する方法です。
〇どんな方法で人為的卵子活性かを行うの?
当院で行っているのは「Ca²⁺イオノフォア処理」「塩化ストロンチウム処理」の二つです。
第一選択はCa²⁺イオノフォア処理です。「イオノフォア」という単語には「特定のイオンの膜透過性を上げるもの」という意味があり、Ca²⁺イオノフォアは卵細胞膜のCa²⁺透過性を上げ、結果的に卵細胞質内のカルシウムイオン濃度を増加させる作用があります。
第二選択は塩化ストロンチウム処理です。この処理に用いる塩化ストロンチウムにも、Ca²⁺オシレーションを起こす作用があると考えられています。
どちらの処理も、顕微受精後に薬剤を溶かした溶液の中で短時間培養し、その後の培養は通常通りに行います。当院では、ICSIでの受精率が30%以下の患者様に次回以降の顕微授精で人為的活性化をおすすめしております。また、円形精子症、精巣内精子を使用される患者様にも活性化処理を行う場合があります。
当院では以前からこの技術に力を入れており、すでに50名以上のお子さんが産まれています。お子さんの発育調査も継続的に実施しておりますが、現在のところ、先天異常率や心身発育について、体外受精で産まれた他のお子さんとの違いは認められていません。
私たちは、患者様に笑顔で当院を卒業していただけるよう培養技術の向上・知識の習得に努めております。何か気になることがございましたら、お気軽にスタッフまでお尋ねください。
仙台も本格的に寒くなって参りました。どうぞお身体に気を付けてお過ごしください。
参考文献
生殖補助医療(ART) 胚培養の理論と実際/卵子学会
京野アートクリニック仙台
培養部門 小林 由芽
診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
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