コラム 2021.09.14
採卵スケジュールを立て、卵巣刺激を行っても卵胞がなかなか育たない方いらっしゃいます。このような方は、体外受精において“卵巣刺激低反応(poor responder)“と呼ばれ、卵巣刺激の反応性を改善するためには卵巣刺激に工夫が必要となります。
2011年、ヨーロッパ生殖医学会(ESHRE)から、Bologna criteria(ボローニャ基準)と呼ばれる卵巣刺激低反応の判断基準が示されました。この基準では、以下の3項目のうち、少なくとも2つが満たされれば低反応卵巣と定義されています。
*リスク因子:染色体異常、骨盤内感染、子宮内膜症、がん化学療法、卵巣手術など
低反応の本質的な要因は、年齢の上昇と共に起こる卵胞数の減少であり、卵巣予備能の低下であると考えられています。しかし、背景が様々であり、原因を特定するのは困難なのが現状です。原因としては、ゴナドトロピン投与量の過不足、卵胞刺激ホルモン受容体の異常、卵子の質の低下(染色体異常)などが考えられています。
妊娠率については、全年齢層における低反応症例の妊娠率は14.8%で、正常反応症例の34.5%と比べて有意に低下することが示されています。また、低反応症例の中でも、37歳以上の妊娠率は1.5%~12.7%であり、36歳以下の13.0%~35.0%より有意に低下すると報告されています。
低反応症例では、原始卵胞が減少しているため、強い卵巣刺激を行っても発育卵胞が得られないことが多く、身体への負担を軽減するために低刺激法が中心となります。また、レトロゾールを用いた刺激では採卵数、着床率の向上が報告されています。採卵前周期のサプリメント投与* (DHEA、メラトニン、レスベラトロール)により採卵数が増加するという報告もあり、当院ではこれらの活用も行っておりますので、一例を紹介いたします。
DHEAは副腎と卵巣から分泌されるホルモンです。女性ホルモンであるエストラジオールの元となり、分泌量は年齢上昇とともに減少してきます。体外受精周期の約半年前から服用することで、採卵数、成熟採卵数、受精率および妊娠率が有意に増加することが報告されています。
酸化ストレスと年齢上昇が卵子の質の低下の主な原因と考えられています。メラトニンの抗酸化作用は卵胞液中酸化ストレス濃度を低下させ、卵子の質を守る効果があります。当院では、採卵前に内服することにより、受精率、胚盤胞到達率(胚の成長)を改善できることを報告しています。さらに、新鮮胚移植周期において妊娠率の上昇と流産率の低下傾向も見られています。
レスベラトロールはブドウの皮や赤ワインなど含まれるポリフェノールの一種であり、若返り遺伝子と考えられているSirt-1の発現を促す効果が報告されています。強力な抗酸化作用があり、卵子の質を改善する効果があります。メラトニンと同様に、当院では、採卵前内服することにより、受精率、胚盤胞到達率が増加することを報告しています
※当院における、メラトニンとレスベラロール投与の成績についての詳しい情報は過去のコラムをご参考下さい。
http://203.183.146.49/column/post-710/
最後に
卵巣刺激低反応に関しては未だ不明な点も多く、卵巣の状態も一人一人によって異なります。当院では漫然と同じことは繰り返さず、これまでの経験から患者さまの周期毎に最適な方法での卵巣刺激法を行っております。
ご自身の卵巣の状態や卵巣刺激法などで不明な点がございましたら遠慮なくご相談下さい。
京野アートクリニック仙台 培養部 佟忻。
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診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
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