コラム 2022.10.10
TESEの成績で注目されやすいのは精子の回収率であり、非常に重要な要素になりますが、もう一つ同じくらい重要な要素があります。それは婦人科でのTESEでとれた精子を用いた顕微授精の経験や対応能力です。
今回は男性の治療から女性の治療への連携や、同一病院内で一度に治療できることの有利なことについて説明します。
TESEで見つけられた精子は凍結保存され、手術をした病院で凍結保存されます。TESEでとれた精子はそのまま子宮に入れれば妊娠するわけではなく、採取した卵子と顕微授精で受精させ受精卵をつくり、子宮に移植をすることで妊娠を成立させます。
そのためTESEののちには婦人科での治療が不可欠であり、妻の採卵、顕微授精、移植と計画が進んでいきます。
ではどのような病院で顕微授精が行えるのでしょう。
体外受精や顕微授精などの高度な不妊治療を行える病院は、学会が定める基準をクリアし、不妊治療専門医が在籍する指定病院になります。
しかし、TESEは特に行える病院はとくに指定されていません。その病院がTESEを行っていれば、専門医の有無にもかかわらずTESEを受けることは可能です。日帰りもあれば入院が必要な病院もあり、保険診療ではなく自費で行う病院もあります。
このようにいろいろな病院がありますが、顕微授精をしていない病院でTESEを行い精子が回収できた場合、顕微授精ができる婦人科の病院への精子搬送が絶対に必要になります。
精子を搬送する場合、搬送量や搬送先での凍結保存料など保険でカバーされない余計なコストがかかります。現在、精子凍結および保存は保険でカバーされておらず、唯一TESEの手術に含まれる形で、手術時の精子凍結の費用がカバーされています。そのため搬送先での精子保存は現状保険対応ができないため当該病院が無料で行うか、自費でのコストがかかります。
また、一般的に搬送は自分で機材を借りて行うか、専門業者に依頼します。
自分で運ぶ場合、液体窒素の入ったケースを病院から借りて自家用車で運ぶなどします。JRの規約ではどのような形であっても液体窒素の持ち込みは禁止していますので、電車に持ち込んで液体窒素から煙が出るなどのトラブルがあった場合は責任を追及される可能性があります。
細胞搬送の専門業者に依頼する場合は、距離にもよりますが、一般的に費用は数万円~がかかります。
搬送をすることでのもう一つの問題は精子の破損や劣化のリスクです。事故や渋滞の交通トラブル、温度変化などで精子の状態が劣化する可能性がありますが、搬送した場合の組織の状態については一般的に患者様本人の責任になります。
再度TESEをしてとれる可能性のある場合はまだしも、Micro TESEでやっととれた精子が破損・劣化してしまうと再びMicroTESEをしても精子回収ができず、残念な結果に終わってしまうこともあります。
顕微授精をするうえで使う精子の情報は大切です。
運動はどうなのか?十分な数があるのか?形は?……患者様はちょっとでもいい状態の精子を使いたいでしょうし、状態に合わせて対策ができるならしてもらいたいと考えているでしょう。
搬送でほかの病院から精子を受け取る場合には、精子に対する情報は基本は報告書のみです。我々も搬送精子を受け入れた経験はありますが、凍結本数、運動の有無、病理検査結果が記載されれいるのが一般的です。精子は基本的には一度解凍したら再凍結はできず、すぐに使わなくてはいけませんので試しに解凍して確認することは出来ません。そのため婦人科医師も培養士も実際の精子を目視確認できないまま卵巣刺激、採卵をし、培養士は初めて精子の状態を確認し顕微授精を行わざるを得ません。
当院では男性不妊の専門医が常勤医しておりますので、同一クリニック内でTESEも顕微授精も行えます。そのため煩雑な搬送は不要となり、余計なコストもリスクもかかりません。
男女一緒に不妊治療できる病院にはさらに有利なことがあります
TESEの際、医師がいい組織をとって、培養士はその組織から精子を探します。当院では男性不妊担当医がTESEで組織をとると、すぐに隣の培養室で培養士が精子を探し始めます。これはマンパワーと設備が必要なのでTESEで組織をとり終わってから改めて探す病院も多いです。
当院では手術室と培養室がモニターでつながっており、精子の有無だけでなく、それ以外の細胞の分布や、密度、形態なども観察し、互いにタイムリーにフィードバックしながら精子を探していきます。つまり条件が良く、精子のいそうなところを相談しながら探していくわけです。
精子が見つかれば運動や形態などから状態を判断し、必要あれば精子の生存試験や運動性の反応を見ていきます。そして適正に濃度調整をし凍結保存を行います。この培養士と術者が一緒に術野と組織を見て検索し、さらに婦人科ともディスカッションをすることには、当事者同士でのみ行える報告書には書ききれない温度感の高い情報があります。当院ではこのディスカッションを経て、卵巣刺激の方法や顕微授精の追加処置やなどを決めていきます。
培養士も実際精子を見ていますので、どんな問題が起こりうるのか予測が建てられ対策を講じることができます。
このチーム医療の体制は自費診療の時代から行っておりますが、現在の保険診療体制になってからももちろん継続しております。
保険診療によって不妊治療の自己負担金がかなり下がり、不妊治療のハードルを大きく下げてくれました。
しかし、名声価格といって価格が高いものは価値があり、価格の低いものは価値が低いと考えられることもあります。そのため保険で自己負担金が低くなったことが不安につながることがありますが、僕は今回の保険診療化はきちんとした医療を必要な方に広く提供できるいい機会だと思っています。
保険システムはまだ不十分と言わざるを得ず、従来の自費診療ほど融通が利かない部分があります。しかし今までの経験を生かし工夫をすることでPatient Friendryな医療を提供することが可能であることが、4月からの診療を通してわかってきました。当院の診療システムはできるだけシンプルに、夫婦そろって適正な医療を受けられる環境を構築してまいりました。今後も保険診療に適応しながら更なるレベルの向上に努めていきます。
京野アートクリニック高輪
医師部 田井俊宏
診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
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