コラム 2022.09.17
日本では2022年4月よりAIHが保険適用(保険点数1820点;自己負担5460円)になり、しかも年齢制限もないことより、治療周期数が増加することが予想されます。
人工授精について紹介します。
(1)適応
(2)方法
0.5mlの精子洗浄液をAIHカテーテルで子宮内に注入する方法である。
精液検査を行い、運動精子を確認してから、精液を培養液で洗浄してから実施する。精液を処理しないで、直接子宮腔内に注入すると、感染や精漿による腹膜刺激や子宮収縮を起こしやすくなるので注意を要する。
(3)運動精子の回収
培養液中のsynthetic serum substitute(SSS)代替血清がCapacitationを惹起させ、運動良好精子を子宮腔内の奥へ注入した後、卵管膨大部で先体反応やHyperactivation、Sperm egg fusionを起こし、受精そして分割・着床して妊娠に至る。DNA損傷の少ない精子を回数する方法ついてMicrofluidicsを活用することも可能である。
(4)人工授精前の必須検査
人工授精で妊娠するためには妊娠できる程度の運動精子が必要であり、卵管疎通性があること、排卵があることが必須である。かならず、AIH前に精液検査、子宮卵管造影で卵管の疎通性を、ホルモン検査や基礎体温、超音波検査で排卵の有無を確認しておく。
(5)妊娠率
自然の性行為をフルマラソンに例えると、人工授精はハーフマラソンに例えることができ、より元気な運動精子を受精の場である卵管膨大部に送り込むことが可能となり、妊娠率向上が期待できる。2004年欧州19か国では98388周期のAIHが実施され、12081例の出産(周期当たり12.3%)が報告されている。87%が単胎で、13%が多胎であった。2009年のThe ESHRE Capri Workshop Groupの報告では周期当たりの平均妊娠率が7%であるのに対し、FSHによる排卵誘発を併用した場合、周期当たりの妊娠率が12%に上昇したが、多胎妊娠率も13%と高くなっている。
(6)治療回数
女性年齢によるが、AIHで妊娠される方は5回までに大部分が妊娠し、それ以降は妊娠率が延びないことより、5回で妊娠しない場合は早めにIVFへステップアップすることが望ましい。
(7)自然周期か排卵誘発周期か
通常は最初の1~2周期は自然周期で行う。妊娠しない場合にはセキソビッド、クロミフェン、レトロゾール内服が推奨される。PCOSに関しては単一卵胞をめざすrFSHの低用量漸増療法が推奨される。一般にFSHによる排卵誘発を併用した場合、妊娠率は上昇するが多胎妊娠率も高くなるので十分注意する必要がある。成熟卵胞が3個以上の場合は多胎妊娠を考慮し、勇気をもってキャンセルすることが大切である。
(8)禁欲期間
精液は禁欲期間が長くなると、精子の質が低下するため、人工授精の2~3日前には一度射精する。夫婦生活が可能な場合は排卵日の2~3日前に夫婦生活を、排卵日に人工授精を推奨している。AIH実施後はホルモン検査や超音波検査や基礎体温で排卵したことを確認することが重要である。
保険適用に伴い、配偶者間のAIH希望者が増加してきている。適切なタイミングに、精子処理した運動良好精子により、一定数の生児が期待される。非配偶者間の人工授精(AID)の場合、「出自を知る権利」による提供者の減少、凍結精子による妊娠率低下を考えると、学会や国レベルの早急なルール決定により、日本国内で治療できるようになることを強く切望する。
2022年9月16日 京野廣一 京野アートクリニック高輪
1)Andersen AN, Goossens V, Ferraretti AP et al. The European IVF-monitoring (EIM) Consortium, for the European Society of Human Reproduction Embryology (ESHRE). Assisted reproductive technology in Europe, 2004: results generated from European registers by ESHRE. Hum Reprod 2008; 23:756-771.
2)The ESHRE Capri Workshop Group. Intrauterine insemination. Hum Reprod Update. 2009:15; 265-277.
3)Yui H. A history of Japanese follow-up surveys of children conceived through artificial
insemination by donor: the evidence of “superior” children and positive eugenics
East Asian Science, Technology and Society: An international Journal 2021.
診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
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