卵巣凍結について 2022.10.28
「卵巣移植 ~世界の現状からみたわが国の課題~」
第25回日本IVF学会シンポジウム2 2022年10月16日(日)8:30-10:00am
京野廣一 HOPE(日本卵巣組織保存センター)
2022年10月16日 神戸国際会議場で第25回 日本IVF学会 シンポジウム2「卵巣移植 ~世界の現状からみたわが国の課題~」で講演してまいりました。
2004年にBelgiumのDonnez J.博士がホジキンリンパ腫の患者のOCT(卵巣組織凍結)/ OTT(卵巣組織移植)による妊娠出産に成功してから2020年までに200例以上の出産が報告されています。下記に示すように欧州がOTC/OTTのパイオニアであり、今やOTC実施数、OTT実施数、出産数からみても世界の大国になっています。
日本はまだまだ実施数、クォリティ共に見習うべき点が多いのではないかと考えます。
欧州で、卵巣凍結が確立されている理由は主に3つあります。
当院(HOPE)でもサイズが小さく均一な成熟卵子や胚盤胞は「ガラス化法」で凍結し、サイズが大きい上に、組織内には大小様々な卵胞、血管、間質、一部髄質も含み複雑な構造をしている卵巣組織切片は「緩慢凍結法」と対象物と凍結の特徴を活かして使い分けをしています。
欧州では、このように卵巣凍結は緩慢凍結法というコンセンサスが得られています。
ガラス化凍結法が悪い、ということではなく、十分に確立された緩慢凍結法を前に、未だ臨床成績も高くない、ガラス化法による卵巣凍結を行うだけの強い理由がないということです。
卵巣凍結の治療プロセスは
・摘出
・凍結
・融解移植
という3つのステップからなりますが、
摘出については、手技も容易であることから、様々な施設で実施できると考えられ、
実際にFertiPROTEKT(人口約1億人)では120以上の施設で摘出手術をしています。
摘出した卵巣組織は後述する搬送システムを有効活用しています。
その後、摘出した卵巣を凍結するには、専門的な技術が必要です。
そのため、凍結に関しては少数のセンターに集約するという方針をとっています。
集約化をすることで、当然1つのセンターでの実施数が増えていきます。
その結果、専門的な技術に経験が積み重なり、よりクォリティの高い治療が実施可能になります。
これは、融解移植についても同様です。
移植をする場所や切片数、どのような方法で移植をするのか、という点はもちろん、それらを短い時間で手術を行うことがポイントになりますので、摘出の時に比べて、高い専門性を必要とします。
そのため、摘出は全国で行い、凍結・融解移植は集約化するという方法が彼らの実施している戦略で、人口や地理的な環境を踏まえても、日本が参考にすべきシステムだと考えます。
FertiPROTEKTでは摘出した卵巣組織を24時間以内に専用の搬送Boxを用いて4℃でOTC施設に搬送します。長時間搬送をした場合によるデメリットがないこともすでに研究で明らかにされています。
移植する場合は-196℃のドライシッパーでOTT施設に搬送して移植します。
2019年には1年間に約400例のOTC、約50例のOTT(OTCは主に Düsseldorf、OTTはErlangen)を実施して、良好な結果を報告しています。
デンマークでは人口580万人の小国なので4施設で卵巣摘出と移植を、Copenhagen1施設で一括してOTCを実施しています。日本においてもHOPEではTransportation systemをフル活用し、癌診療連携拠点病院や東京都癌連携拠点病院と連携し、専門家による質の高いOTC/OTTを実施して参ります。
これらの戦略を実現するための施設として、2016年にHOPEを設立しました。
2020年には、長期保管のための災害対策等も考慮し、移転しています。
卵巣凍結は、受精卵凍結や卵子凍結、精子凍結と比較して、必要とする患者さまの数が多いわけではありませんが、小児がんや緊急性を伴う悪性腫瘍の治療において、重要な妊孕性温存の方法です。
地域格差なく、高品質な卵巣凍結を「均てん化」していくためには、「集約化」が必要となるものと考えます。
2022年10月28日
HOPE 京野廣一
診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
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