コラム 2022.12.26
こんにちは。
今回はPRP(多血小板血漿)に関する最新の研究報告です。
https://link.springer.com/article/10.1007/s43032-021-00669-1
けがをしてしまった時、体の中では「血小板」という成分が傷ついた組織を元通りにしようと働きます。この血小板を多く含む成分(PRP)は、細胞の成長を促す物質や免疫にかかわる物質を含むため、医療に用いることはできないかと様々な研究がなされており、整形外科やスポーツ診療の分野をはじめとして、現在では不妊治療にも用いられるようになってきました。
実際、これまでにもPRPを子宮内腔に注入することで子宮内膜が厚くなり、妊娠率の改善が期待できる、と言った報告が挙げられていました。また、子宮内膜の厚さに変化が見られない場合でも、体外受精で複数回妊娠に至らなかった方達からの妊娠報告もあり、内膜の厚さだけではない他の改善作用についても推測されています。
今回紹介する論文では、3回以上胚盤胞を移植しても妊娠に至らなかった18歳~38歳の女性(393名)を対象としています。この方達をランダムに「PRP実施群」と「PRP非実施群」に分け、PRP実施群の方には胚盤胞を移植する48時間前にPRPを子宮内へ注入しました。その他の治療は非実施のグループと同様の治療を実施し、移植成績を比較しています。
下の表は各グループの患者さんの治療背景を比較したものです。年齢やBMIなど、基礎的な情報に大きな差がないことが見て取れるため、患者さんの背景による影響を考慮しなくても良いことがわかります。
続けて、メインとなる妊娠率や出産率についてです。妊娠率はそれぞれ49.0%と24.9%、出産率はそれぞれ39.3%と5.6%と示され、統計学的にもPRP実施群に有意な差があると報告されています。また、多胎妊娠の割合はどちらのグループでも大きな差は見られませんでした。
今回の報告でもう1つ特徴的な比較として、「自然流産の割合」があります。この報告では、妊娠に伴う合併症として、貧血や妊娠高血圧、羊水過多など、妊娠維持が困難になる症状や、流産や子宮外妊娠など、妊娠継続が出来なかった患者さんの集計も行われています。
その中で、自然流産の割合はPRP実施群で16.7%(16名/96名)、PRP非実施群で68.4%(26名/38名)と示されており、流産の確率がPRP実施群で圧倒的に低いことがわかります。
また、今回の比較では最初にお話をした胚盤胞を移植する時の子宮内膜の厚さについても計測されています。PRP実施群で平均9.2mm、PRP非実施群で平均8.9mmと、今回は統計学的に有意な差があるとまでは報告されていませんでしたが、やはり一定の増加傾向は見られていました。
当院では2021年1月から、厚生労働省「再生医療等委員会」より認可を受け、PRP治療施設として治療を開始しました。現在は更にPRPの中から成長因子のみを凝縮し、フリーズドライさせたPFC-FD療法へと移行しています。PFC-FD療法についてはこちら(https://ivf-kyono.com/prp/)でも紹介していますので、ぜひご覧になってみてください。
京野アートクリニック高輪
研究支援部 竹重勇哉
診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
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