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医療コラム

コラム 2023.09.04

がんと生殖補助医療

胚培養士の宮本です。

 

今回は私が大学生・大学院生時代に学んだことと織り交ぜながら、妊孕性温存について紹介していこうと思います。

※大学時代は「乳がん」について研究していました。

 

 

  1. 妊孕性温存とは?

 

「妊孕性温存」とは、「失われるかもしれない妊娠する能力(可能性)を取っておく」ことです。

では、妊娠する能力が失われるとは、どういうことなのでしょうか?

 

妊娠の成立には「生殖器」が必要で、男性であれば精巣、女性であれば卵巣が生殖器にあたります。

それぞれ精子、卵子(配偶子)をつくる・保管する臓器です。

 

男性も女性も「妊孕性の喪失」は「配偶子(精子・卵子)の喪失」および「生殖機能の消失」と同義です。

※女性では妊娠成立・継続に子宮が必要ですが、子宮摘出などに対する妊孕性温存術はないのが現状です。

 

妊孕性が失われる、または低下する原因は主に表1の通りです。

表1

男性 精巣摘出
精子幹細胞の消失
勃起・射精不全
女性 卵巣(または子宮)摘出
原始卵胞の消失
年齢による卵巣予備能の低下

 

生殖器を摘出してしまうと、配偶子がなくなってしまいます。

男性側では精子幹細胞、女性側では原始卵胞とありますが、これはいわゆる精子・卵子の元となる細胞です。

また、女性は将来卵子となる元の細胞は胎児期にピークを迎え、そこからずっと数が減っていきます。増えることはないので、年齢が妊孕性と密にかかわっていると認識すると良いかと思います。

 

この消失してしまうかもしれない配偶子を保存しておくことが、妊孕性温存です。

 

  1. 妊孕性の喪失の原因としてのがん治療

 

生殖器の摘出や精子幹細胞・原始卵胞が消失する原因に、がん治療があります。

 

がん治療はがん細胞を殺傷するのですが、ここではがん細胞と正常な細胞の違いについてお話したいと思います。

 

車で表現すると、正常な細胞はアクセルもブレーキも正常にバランス良く働いている状態で、がん細胞はアクセルやブレーキが壊れてしまい、スピードが出過ぎている状態でアンバランスである、とイメージしてもらうと分かりやすいでしょうか。

 

出典元:https://ib.bioninja.com.au/standard-level/topic-1-cell-biology/16-cell-division/cancer-development.html より一部改変

 

アクセルやブレーキは細胞分裂に必要な2つの機能を表しています。

 

細胞は外からの刺激(=アクセル)を受けて細胞分裂する状態と変化します。

分裂するにも準備が必要で、栄養が足りているか、大切な遺伝情報にエラーがないかを調べます(=ブレーキ)。実際に準備不足の場合は分裂しない選択を細胞自身がするような仕組みが備わっています。

アクセルが効きすぎていたり、ブレーキが壊れてしまっているので、がん細胞はスピード違反な分裂速度となっているのです。

 

実際の細胞の中では、下の図のような仕組みで細胞が分裂します。

細胞内のアクセルが効きすぎている状態のイメージ図

細胞内のブレーキが壊れてしまった状態のイメージ図

 

では、このような性質のがん細胞をどのように殺傷し、がんを治療するのでしょうか。

化学療法では主に分裂するためのタンパク質を邪魔するような薬剤を使用し、

放射線療法は、放射線が細胞にあたるとDNAに大きな傷がつき、それが原因となってがん細胞が殺傷されます。

この2つの治療は、どちらともがん細胞だけでなく正常な細胞にも作用し、「副作用」という形で症状が出てきます。

放射線療法は放射線を当てる場所にある正常な細胞のDNAにも傷をつけるため、そのDNAの傷を修復できない場合は正常な細胞も死んでしまいます。

化学療法は分裂速度の速い細胞に効果があります。正常な細胞でそのような特性のある細胞というと、髪の毛が思い浮かぶのではないでしょうか。化学療法の副作用として髪が抜けてしまうというのは、髪の毛の細胞の分裂速度がとても速いのが理由です。

 

精子や卵子のもととなる細胞も分裂スピードが速いため、使用する化学療法薬や放射線を当てる部位によっては、がん治療の副作用として妊孕性の喪失へとつながってしまうのです。

 

 

当院で実施可能な妊孕性温存方法は、以下の通りになります。

男性 精子凍結

精巣内精子凍結

女性 卵子(未受精卵)凍結

受精卵凍結

卵巣組織凍結

当院の妊孕性温存についての詳しい情報はこちらをご覧ください。

https://ivf-kyono.com/medical/fertility-preservation/

 

少し難しい内容となってしまいましたが、がんのこと、そして妊孕性温存のことを少しでも知っていただけたなら幸いです。

また、胚培養士の中には私のように生殖関連の大学ではなく、別の分野を卒業した者も多くいます。私たちは異なる分野出身だからこそ、それぞれの知識・個性を活かしながら、患者さまへの妊娠という一つのゴールを精一杯サポートさせていただいています。

これからもいろいろな情報提供をしてまいりますので、ぜひコラムを覗いてみてくださいね。

 

仙台培養部

宮本 若葉


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診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)

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