医療コラム

ヴィーガニズムから男性不妊をサポートする栄養や食事を考える

近年、動物性食品を排除した食生活を送るヴィーガニズムは、倫理的、環境的、健康上など様々な価値観から取り入れる人が現れ、SNSなどを通じて全世界に広まっています。当院の外来でもヴィーガニズムに近い生活をしているという方もお見掛けするようになりました。しかしながら、最近、著名なヴィーガンが若くして逝去されたりなど、健康上の懸念もあります。男性不妊外来でよく聞かれるのは、男性の生殖能力への影響です。ヴィーガニズムと男性の生殖に関する健康との関係を調べてみました。

ヴィーガニズムの栄養に対する問題点

ヴィーガンの食生活では、動物性食品をとらないためどうしても不足する栄養素があります。生殖能力においては、ビタミン B12、鉄、亜鉛、オメガ3-脂肪酸などが不足する可能性があります。1)　そのため、サプリメントなどの補助食品や計画的な食生活が必須になります。
これらの栄養素に意識を向けるのは、ヴィーガンでなくても肉や魚が苦手な方や、食が細い方などにも参考になると思います。

ビタミン B12

ビタミン B12 と鉄分の欠乏は、計画性の低いヴィーガンの食事によく見られると言います。これらの不足は精子の生産だけでなく、一般的な健康に影響を与える可能性が示されています。 2) ビタミンB12は主に動物性食品に含まれており、DNA合成と神経機能に重要な物質です。ヴィーガンはビタミンB12が摂取困難なため、サプリメントが必要です。草食動物は腸内細菌叢の働きによって植物からビタミンB12を作ることができるため、肉食しなくても生きていけます。

鉄分とビタミンC

鉄分の不足は貧血に繋がります。大豆や青菜類などの植物性食品にも豊富に含まれていますが、動物性の鉄分よりも吸収率がかなり低いため(1/3から1/10)、ビタミン C が豊富な食品の摂取し吸収効率を上げる必要があります。ビタミンCは果物やブロッコリー、ピーマン、カリフラワー、青菜類に含まれますが、熱に弱くゆでると壊れてしまいます。意外にもジャガイモにも多く含まれており、でんぷんがビタミンCの分解を防ぐため熱を通しても壊れにくいと言われています。

亜鉛

適切な亜鉛摂取は男性の生殖の健康に不可欠であり、亜鉛欠乏は生殖能力に影響を与える可能性があります。ご存じのように亜鉛は牡蠣に多く含まれます。動物性ではカツオや肉類に多く含まれます。植物性では、マメ科植物、小麦、ナッツなどに多く含まれますが、大豆に含まれるフィチン酸という物質はキレート材として老廃物を吸着し排出します。その際に亜鉛も排出してしまうため、大豆だけではなく、タイミングをずらしてナッツなども摂取したほうがいいのかもしれません。

オメガ3-脂肪酸

哺乳類の精子は不飽和脂肪酸を多く含んでいます。これは受精に重要な役割をはたします。オメガ-3脂肪酸を4週間以上摂取すると、摂取期間と摂取量に依存して精子の質の改善すると報告があります。3)　 オメガ3-脂肪酸は、亜麻仁やクルミなどの植物源に含まれています。これらをバランスのとれたヴィーガン食に取り入れると、男性の生殖能力をサポートできる可能性がります。オメガ3-脂肪酸は一般の食生活を送る場合も、魚をあまり食べない方などは摂取を意識した方がいいと考えられます。

バランスが重要

ヴィーガニズムは男性の生殖能力を決定的に低下させることはありませんが、特定の栄養素が不足すると問題が起こる可能性があります。そのため、ヴィーガニズムを適切な計画、補給、必須栄養素への注意が鍵となります。医療専門家または栄養士などに相談することで、生殖能力をサポートしながら、バランスの取れたヴィーガニズムを維持することが重要です。

1)     Craig WJ, Mangels AR; American Dietetic Association. Position of the American Dietetic Association: vegetarian diets. J Am Diet Assoc. 2009 Jul;109(7):1266-82. doi: 10.1016/j.jada.2009.05.027. PMID: 19562864
2)
Herrmann W, Schorr H, Obeid R, Geisel J. Vitamin B-12 status, particularly holotranscobalamin II and methylmalonic acid concentrations, and hyperhomocysteinemia in vegetarians. Am J Clin Nutr. 2003 Jul;78(1):131-6. doi: 10.1093/ajcn/78.1.131. PMID: 12816782.

3)     Esmaeili V, Shahverdi AH, Moghadasian MH, Alizadeh AR. Dietary fatty acids affect semen quality: a review. Andrology. 2015 May;3(3):450-61. doi: 10.1111/andr.12024. Epub 2015 May 7. PMID: 25951427.