1. TOP
  2. 医療コラム
  3. 保険診療で正しい男性不妊治療を 病気のはなし⑦ 糖尿病と男性不妊症 精子の形成と精巣の機能について

医療コラム

論文紹介 2024.03.01

保険診療で正しい男性不妊治療を 病気のはなし⑦ 糖尿病と男性不妊症 精子の形成と精巣の機能について

糖尿病は精巣自体に影響するのか

前回述べましたが、糖尿病は男性性機能に大きな影響を与えます。しかしながら、EDは陰茎の機能的な問題であり、精巣とは無関係とまではいわないまでも別の臓器の問題になります。
では糖尿病による精巣自体への影響を調べてみると、「精巣自体への影響」と、「精巣を動かすためのホルモンへの影響」の2系統があるようです。
大分まとめたのですが、難しいお話しなってしまいました。申し訳ありません。
細かく説明すると細胞の化学物質の輸送などの話をしなければならず、更に難しく、僕も学生時代から苦労している分野なので、ある程度省略しながら説明してきます。そのため説明が不十分な部分があるのはお許しください。詳しく知りたい方は参照の論文をご覧ください。

精巣への影響

  1. 精子の運動や受精能力への影響
    糖は精子の栄養となり、精子の形成に重要な要素です。精子は、基本的な細胞活動と、運動性や受精などの特定の機能を維持するために糖を燃料としています。しかしながら上手に糖をエネルギーに使うには適度な濃度で糖があることが必要になります。高血糖の状態では、精子の糖の利用がうまくいかず、精子の能力が低下し、さらには不妊症になります。

  2. 精子を育てる環境への影響
    精子が作られる際に精巣内にあるセルトリ細胞という細胞がその手助けをします。セルトリ細胞は精子形成を維持するために糖を利用・分解して乳酸を生成しています。高血糖の状態ですとこれらの細胞の機能に悪影響があり、精子をうまく育てることが出来なくなってしまいます。

  3. 精巣の血管の障害
    前回、糖尿病は血管を傷害する病気と書きましたが、高血糖の状態は精巣静脈を傷害し、精巣灌流(精巣の血の巡り)が低下し、機能障害を起こすと言われます。

  4. 酸化ストレス
    酸化ストレス物質の増加は精巣に悪影響を及ぼすとされています。精索静脈瘤でも酸化ストレス物質が精子を悪くすると言われます。
    高血糖の状態では、化学物質の代謝が正常に働かず、糖を代謝する際に出来る老化物質である終末糖化産物がたくさん残り、酸化ストレス物質を活性化させたり、細胞に酸化ストレス物質を産生させたりすると言われています。その他にも様々な化学物質の代謝経路に悪影響を及ぼすとされています。

  5. 慢性的な炎症
    高血糖の状態が続くと、体全体に常に炎症が起こっているような状態になります。それにより炎症性物質であるサイトカインが産生され、酸化ストレスなどとは別の方向から精巣細胞に障害を与えると言われます。

    これら以外にも高血糖の状態であることは細胞内の小器官であるミトコンドリアの異常や遺伝子の変異、細胞死に関連することなどあらゆる方向から体に悪影響を与えます。

精巣を動かすためのホルモンへの影響

精巣を動かすホルモンは脳の一部である視床下部と下垂体が関係します。まず視床下部からGnRHというホルモンが出て、同様に脳の一部である下垂体を刺激し、下垂体にLHとFSHを出させます。
男性なら、LHは精巣に男性ホルモンを作らせ、FSHは精子を作らせます。そして十分な男性ホルモンや精子が出来れば、下垂体や視床下部にブレーキがかかり、ホルモンの量が調整されます。
やや面倒に見えるシステムですが、いくつかのホルモンを介することで体はちょうどいい状態になるようにホルモンを自動調節しています。

高血糖の状態が続くと、このブレーキに異常が起こり、GnRHのに対する下垂体の感受性(感度)を低下させます。その結果、LH と FSH が異常に分泌され、男性の生殖機能に影響を及ぼします。さらに高血糖状態の脳ではGnRHのホルモン産生が下がるという報告もあり、脳内でのホルモンのバランスが大きく崩れてしまい、精巣に正常に刺激を与えることができなくなると言われています。

とにかく高血糖状態が続くことはよろしくない

糖尿病は今や世界中の国で大きな問題となっており、研究者も多く様々なデータが存在します。
おおきくとらえるなら、高血糖状態が続くことにより、体はさび付き、老化が進みます。血管は固く狭くなり臓器に十分な栄養や酸素がいかなくなります。また、神経も傷んで感覚が落ちたり、体の動きや機能が悪くなったりもします。老化物質が溜まり、細胞が傷み機能が落ちてきます。
それは生殖能力も一緒で、今回のデータを見ると、高血糖の状態では様々な影響により精子が上手に作れなくなってしまいます。高血糖の状態を続けることは老化のレールを特急列車で走っていくようなものだと思ってよいでしょう。
このコラムでも「高血糖の状態」とたくさん書きましたが、糖尿病になったとしても血糖コントロールをして、うまく付き合うことが出来れば、影響は最小限に抑えられる場合もあります。
ひたすら不健康を恐れ、修行僧のような生活をする必要はないと思いますが、健康寿命を延ばすためにも、定期的に健診を受け、体の管理とメンテナンスをしながら上手に生きることは、様々なライフイベントをうまく過ごしていくことに役に立つと思います。

引用文献
Huang R, Chen J, Guo B, Jiang C, Sun W. Diabetes-induced male infertility: potential mechanisms and treatment options. Mol Med. 2024 Jan 15;30(1):11. doi: 10.1186/s10020-023-00771-x. PMID: 38225568; PMCID: PMC10790413.


診療時間

診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)

診療時間
7:30〜16:30
(最終予約 15:00)
休診
日曜は 8:30~14:00(受付は12:00まで)で診療いたします
祝日も休まず診療いたします
診療内容によって予約可能時間が異なります。
不明点はスタッフまでお問い合わせください。

ご予約・お問い合わせ

03-6408-4124

お電話受付時間
月・水〜土:
8:00〜16:30
日:
8:30〜12:00
祝日は曜日に順じます
2022年3月卒業予定者対象