コラム 2024.03.12
男性の妊孕性温存は基本的には非常に単純で、射精が出来る方なら精液を提出していただき、精子が認められれば凍結保存するという手順になります。
精子を凍結する場合、運動率が落ちてしまうことと、1回の採精で複数回分の精子を回収する方が効率的なので、基本的には顕微受精に用いることが前提になります。現在国の補助として、43歳未満の方に対し、射出精子の凍結は1回最大25000円が2回まで助成されます。
ではなぜ、若くしてがんになったら妊孕性温存を勧められるのでしょうか。仮に胃がんになったとして手術で完全に取り切れ、追加の治療も不要となれば妊孕性温存はいりません。
がんの治療の過程で精巣に影響が出る場合があります。そのため、以下の様な治療が必要な場合に行うことが推奨されます。
・精巣自体、もしくは射精に関わる尿路や神経に関わるがんの場合。
(精巣がん、前立腺がん、膀胱がん、直腸がんなど)
・がんは精巣以外の部位だが、転移などがあり化学療法が必要な場合。
・精巣もしくはその周辺に放射線があたる放射線治療を行う場合。(直腸がん、精巣がん、白血病など)
精子が取れない場合はいくつか考えられます
① 精液は採取したが精子がいない。
② 病気やその治療(手術)により射精できなくなった。
③ 精通前の年齢でそもそも射精をしたことがない。
①②の方は、次のがんの治療までに、時間的に余裕があれば精巣を切開して精巣組織を取り出し、精子がいれば凍結することが可能です。手術としてはSimple TESE、Micro TESEとなります。手術は自費となってしまいますが、国の補助として最大35万円補助が出るため、保険診療とのぼ変わらない価格で手術が可能です。しかしながら、術後の傷が治るまでの時間や、感染のリスクなどから、すべての方が行えるわけではないのが現状ですが、当院でも精子回収に至った症例もあり、がん治療の担当医と連携を取りつつ、がん治療の妨げにならない範囲で対応しております。
③の場合は非常に難しい問題です。国際学会などでは、先にTESEで精巣組織をとっておき、がん治療をし終わってから精巣に移植をするか、精子を培養するかして、妊孕性を確保するという報告もありますが、あくまで実験的です。未来の技術の進歩に託してという部分が強く、小児の手術もクリニックでは困難であることから、現状当院では対応しておりません。
がんと診断されることは非常にショックな出来事です。特に若い方ではひとしおでしょう。診断がついたとたん、たくさんのやらなければいけないことが沸き上がり、タイムリミットがあるように、次々と治療スケジュールが決まっていってしまいます。さらに自分の将来や家族への不安などの中で、治った後の生活の想像をするのは大変難しいことかもしれません。
しかしながら、現在は癌は治る病気になってきており、治療により失うものがあったとしても、その後の生活を豊かにしていくことが重要となっています。
当院ではできる限り迅速に、妊孕性温存を行い、一つでも不安の解消となればと思っております。この文章が、一人でも多くの若いがん治療を待つ方の目に留まることを願っています。
診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
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