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医療コラム

論文紹介 2024.03.21

保険診療で正しい男性不妊治療を 新しい無精子症の手術MMTSEについて① 非閉塞性無精子症の精子回収法で、MicroTESE以外の選択肢は?従来の方法とMMTSE(Micro Mapping Testicular Sperm Extraction)の新提案

手術のダメージを最小化し、Micro TESEのクオリティを保つ、当院で開発した新しい精子回収のメソッド

非閉塞性無精子症と診断され、Micro TESEを行うと、比較低簡単に精子が見つかる方と、精巣中探してもほんのわずかしか精子が取れない方がいらっしゃします。比較的簡単に見つかる方々は、Simple TESEでは精子回収は難しいものの、Micro TESEで大きく精巣を切るのはもしかすると不要な可能性があります。​
もし、精巣を切開する前に精巣内を評価できれば、必要時応じた切開で精子を回収できるかもしれませんし、Micro TESEで常に懸念される男性ホルモンの低下のリスクを最低限にできるかもしれません。しかし、既出の論文を見ても、精巣の組織を採取する以外に組織の状態を予測する因子はないとされています。
そこで我々は、Micro TESEで精巣を切開する前に針を使って広範囲に少量の組織をとり、その場で観察して、組織の状態によって精巣の切開の仕方を変えてみる方法をとってみました。​
この方法を”Micro Mapping Testicular Sperm Extraction” (MMTSE)と名付け、評価した結果を数回に分けて書いていきたいと思います。​​

MMTSEは国際学会誌であるにReproductive Medicine and Biologyに投稿し、2024年3月に”Micromapping testicular sperm extraction: A new technique for microscopic testicular sperm extraction in nonobstructive azoospermia”として掲載されました。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/rmb2.12566

現在行われている非閉塞性無精子症の治療

文献を当たってみると、実際は非閉塞性無精子症の精子検索には様々な方法があります。これらの方法からは、”精子回収率を上げよう”、”より良い精子を回収しよう”、”より精巣のダメージを少なく”、という医師たちの強い気持ちを感じます。しかし、完璧な方法はなく、みな精子回収率、精巣のダメージ、身体的負担、価格の負担、時間的な負担など一長一短あります。

① Micro TESE

1999年にアメリカのDr. Peter N. Schlegel医師により発表された方法です。Micro TESEは国際的にも標準的な治療であり、無精子症の治療を行っている施設のほとんどはこの方法を採用しています。非閉塞性無精子症と診断されて、お子様を希望された場合、一般的にはMicro TESEを受けて、精子が見つかれば、その精子を用いてICSIをすることになります。
比較的簡便であり、非常に優れた精子回収法ですが、精巣を大きく切り開くために精巣のダメージが大きく、術後の男性ホルモンの低下など問題もあります。

② FNA mapping (Fine Needle Aspiration Mapping)

これはアメリカのPaul Turek医師により1997年に発表された方法です。(1) 皮膚を切開せず、経皮的に注射針で精巣を数十か所穿刺・吸引し、精巣内の液体を採取してそこに精子がいるか確認する方法です。穿刺場所はマッピングと言って決まった場所に決まった番号が振ってあります。この手術は2回に分けて行い、まず1回目の手術で穿刺を行ってサンプルを取り、それを細胞診という方法で標本にして精子を検索します。Micro TESEでは培養士がFreshな組織から精子を探しますが、これはプレパラートにして、染色し、標本化してから検索します。
精子が見つかれば、後日2回目の手術を行い、精子があった番号の部分の近辺を切開するなどして組織を取ります。見つからない場合はそのままGive upするか、後日Micro TESEを行うようです。
この方法は精巣のダメージは小さくなりますが、手術が2回必要なのと、細胞診の検査の特性上、細胞が固定されてしまうため、精子の運動性は判断できません。また1回目に精子が取れたとしても、標本にしてしまうため顕微授精には使用できません。
FNA mappingの価格も開発者の権利関係で高額になっていると聞きます。さらに2回目の追加採取もしくはMicro TESEの費用も掛かります。
またヨーロッパの泌尿器科ガイドラインには ”FNAP cannot be recommended as a primary therapeutic intervention in men with NOA until further RCTs.”(FNA mappingはさらなるランダム化比較試験が行われるまで、NOA 患者に対する一次治療介入として推奨できない)ともされているので、まだ検討が必要な方法であることがわかります。

③ OTEM (Open Testicular Mapping)

これはブラジルの医師であるMarcelo Vieriaによって2020年に発表されました。(2) 精巣をMicro TESEを行う時のように露出させ、精巣の表面に針で小さな穴をあけます。その針穴からごく少量の組織を採取して精子がいるかどうか探します。精子がいれば追加の採取をして、手術終了、いなければ次の針穴をあけて同様に組織を取ります。この針孔もMappingされ場所が決まっており、最大36か所採取するようです。手術は1回で終わるし、組織も無駄にならないので、初めて読んだ時には僕はかなり理想的な方法と思いました。しかし、精子を検索するには採取した組織を刻んでつぶして、スライドを作って顕微鏡で精子を探す作業が要ります。スムーズに行っても、1検体の処理と検索に5分程度はかかるので、36か所x左右を行うとなると、数時間はかかることが予想されます。全身麻酔ならいいですが、日本ではほとんどのMicro TESEが局所麻酔で行われている関係上、2-3時間で手術を終わらせなくてはならないため、実際のところ遂行するのは難しいのが現状です。また、こちらも新しい方法ですし、その論文にもほかの方法との比較や、更なる検討が必要であるとしています。

④ Simple TESE

ご存じの方もいらっしゃると思いますが、Simple TESEはMicro TESEよりも前から行われている精巣の一部を切開して組織をとる、主に閉塞性無精子症の治療に用いられる方法です。Micro TESEが出来る以前は精巣を何か所も切って、組織をとって精子を探していた時代もあったようですが、精巣のダメージが強すぎてMicro TESEの出現とともに廃れたようです。
ではSimple TESEを非閉塞性無精子症の患者さんに行った場合精子はどのくらい採れるのでしょうか。
非閉塞性無精子症の患者における Micro TESE とSimple TESEを比較したレビューでは、Micro TESEの精子回収率が42.9 ~ 63%の範囲であるのに対し、Simple TESEの精子回収率は16.7 ~ 45.0%としています。もちろんMicro TESEの方が回収率は高いですが、術前の検査では非閉塞性と診断されていても、精子を回収するだけなら、半数程度は大きな切開を伴うMicro TESEが必要ないということがわかります。

精子回収術に求められること

  1. 低侵襲アプローチ:できるだけ小さな切開で精子を採取することが好ましい。 (4)

  2. 高品質の精子: 精子を見つけることが主な目的ですが、複数の場所で比較をし、運動・形態などの面から最高品質の精子を入手することも重要です。 (5.6)

  3. シンプルさと簡潔さ:1 回の手術で完了し、局所麻酔下で実行可能である方が患者さんの負担は減りますし、わずかな精子も無駄にせず済みます。日本の場合は保険診療の範囲で行えることも重要です。

  4. 十分な組織量:組織凍結により複数のICSIサイクルで使用する適切な量の組織を入手することが望まれます。

我々のMMTEは

今回当院オリジナルのMMTSEはこれらの条件を出来る限り満たし、バランスをとった方法です。精子が取れた方にも、取れなかった方にもより納得いただく方法と考えております。
次回からはその方法の説明、成績などをご説明していこうと思います。

1. Turek PJ, Cha I, Ljung BM. Systematic fine-needle aspiration of the testis: correlation to biopsy and results of organ “mapping” for mature sperm in azoospermic men. Urology. 1997;49:743–8.
2. Vieira M, Glina FPA, Mizrahi FE, Mierzwa TC, Glina S. Open testicular mapping: A less invasive multiple biopsy approach for testicular sperm extraction. Andrologia. 2020;52:e13547.
3. Deruyver Y, Vanderschueren D, Van der Aa F. Outcome of microdissection TESE compared with conventional TESE in non-obstructive azoospermia: a systematic review. Andrology. 2014;2:20–4.
4. Miyaoka R, Esteves SC. Predictive factors for sperm retrieval and sperm injection outcomes in obstructive azoospermia: do etiology, retrieval techniques and gamete source play a role? Clinics . 2013;68 Suppl 1:111–9.
5. Esteves SC, Miyaoka R, Agarwal A. Sperm retrieval techniques for assisted reproduction. Int Braz J Urol. 2011;37:570–83.
6. Esteves SC, Miyaoka R, Agarwal A. Surgical treatment of male infertility in the era of intracytoplasmic sperm injection – new insights. Clinics (Sao Paulo). 2011;66:1463–78.


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診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)

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