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医療コラム

コラム 2024.03.28

保険診療で正しい男性不妊治療を 新しい無精子症の手術について② MMTSE(Micro Mapping Testicular Sperm Extraction)の目的と開発

非閉塞性無精子症でもいろいろある

前回書いた通り、非閉塞性無精子症と診断されても、Simple TESEで精子が取れる人もいるように、精巣内にある程度多くの精子が存在する方から、限局的にほんの少ししか精子がいない方もいます。
比較的多く精子がいる方は、Micro TESEで大きく精巣を切るのは、過剰な切開でダメージを考えると本当は望ましくないかもしれません。しかし、Simple TESEで1か所しか採取しないで精子が見つかったとしても、これが精巣内で比較したときにコンディションの良い精子を含む組織かどうかは疑問が残ります。

MMTSEの方法

そこで当院で開発したMMTSEでは、精巣のエリア分けをして、ある程度広範囲にサンプリングをすることで、Micro TESEの前に組織の評価をすることにしました。できるだけ精巣のダメージを少なくするために、小さな針穴を精巣にあけて、針穴から非常に細いピンセットを使用して組織のサンプリングをします。針穴をあける際や組織をとる際は、血管が透けて見える部分は避けて、出来るだけ出血しないように顕微鏡下に行います。取れた組織をエリアごとにまとめて処理し、精子検索をします。1)

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MMTSEは4エリアに分けているので、、片方の精巣に対して4つの検体を調べるだけで済みます。組織はまず初めに一通りとってしまうため、一つ一つ結果を待つこともありません。そのため前回書いた通り、早ければ5分程度で一か所処理が終わるので、複数の人数で処理に当たれば、両側行っても20分ほどで組織採取から1回目の精子検索まで完了します。

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MMTSEで精子が見つかったら

この検索でで精子が見つかれば、その中で精子の最もコンディションのいい位置を切開して、顕微鏡下に精細管を選んで組織を追加採取します。図のように基本的には出来るだけ小さい傷から精巣組織を観察し、十分な組織が取れればそのまま終了します。しかし、大目に精子があるタイプの症例とはいっても、通常よりはかなり少ないので、必要があれば切開を伸ばして精巣の1/4程度の組織を検索していきます。
残念ながら精子が見つからない場合は、そのままMicro TESEに移行します。

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従来の手術を考察。まずはいいところ。

Micro TESEは比較的短時間で終わり、精巣の観察範囲が広くて、良い精細管をピンポイントでとってくるのが得意な手術です。目で見て精細管が選べるところが大きなアドバンテージでしょう。
FNA mappingは、「ある程度広範囲をランダムに取れば、分散して存在する精子であっても高い確率で当たる」という考えのもと行われています。針で刺すので、すべての部位に均等に検索が入ります。出血などの合併症に注意は必要ですが、基本的にはダメージを少なくするのが得意な手術といえるでしょう。どちらにも言えることは、精子を複数の部分からとって観察、比較しており、最終的には最良の精細管を狙っていきます。初回の手術での精子の回収率は様々な報告があり、直接的な比較は難しいですが、大きくは変わらないと考えられます。2.3)

従来の手術を考察。犠牲にしていること。

しかしながら、これらの手術は良い部分と、犠牲にならざるを得ない部分は表裏一体です。
Micro TESEは大きな精巣切開と精巣のダメージを犠牲にしています。また、真ん中で切開するため、精巣の上極と下極(精巣の一番上と下)は組織の奥深くになってしまい、検索が困難です。FNA mappingは手術の回数や、精子の運動性の評価ができないこと、初回に取れた精子が使えないことが犠牲になっています。またFNA mappingで1か所でしか精子が見つからなかった場合、後のMicro TESEでの精子回収率は86%であるという報告もあり、精子が見つかったにもかかわらず、ICSIまでたどり着けなかった症例も存在します。2) 権利関係が難しい事やコスト面も一般の病院での導入を困難にしています。

MMTSEの理念

”非閉塞性無精子症=Micro TESE”というのはGolden Standardで無視することは出来ませんし、僕も賛同しています。ですが、精巣の切開やダメージは術者も患者も最低限でやりたいもので、術者は手術のたびに、簡単に素晴らしい精子が見つかることを夢見ていますが、なかなかそうはいきません。少しでも精子が見つかるとそれで終わりにしたくなりますが、でもより良い精子を選ぶのも重要です。なぜなら目的は「精子回収」ではなく、「妊娠・出産」だからです。
今回のMMTSEの理念は、一つのやり方にこだわらないことでした。条件によってフットワーク軽く、その場で方法を選んでいくことにしました。
そこで我々は1回の手術で行うことを前提としました。低侵襲のサンプリングは、その場で容易に精子検索ができる組織採取の方法を採用し、精子が見つかれば良いところを小さく切る、見つからなければサンプリングでカバーできなかった部分をしっかりMicroTESEで探すという選択肢を手術に持たせました。
もし万が一、サンプリングでしか精子がみつからなかったとしても、組織を標本化していないので、そこから精子を回収することもでき、貴重な精子が無駄になることもありません。
結果、MMTSEを採用後、当院で精子回収できた多くの方が、通常のMicro TESEまで大きな切開を必要とせずに良好な精子が回収できました。
次回はその成績や合併症について説明したいと思います。

1)Tai T, Miyamoto W, Fukuoka Y, Shibasaki S, Takahashi M, Okuyama N, Hattori H, Ishikawa I, Nagaura S, Yoshinaga K, Koizumi M, Hashimoto T, Toya M, Kumagai J, Igarashi H, Kyono K. Micromapping testicular sperm extraction: A new technique for microscopic testicular sperm extraction in nonobstructive azoospermia. Reprod Med Biol. 2024 Mar 11;23(1):e12566. doi: 10.1002/rmb2.12566. PMID: 38476958; PMCID: PMC10927935.
2) Janosek-Albright KJC, Schlegel PN, Dabaja AA. Testis sperm extraction. Asian J Urol. 2015 Apr;2(2):79-84. doi: 10.1016/j.ajur.2015.04.018. Epub 2015 Apr 16. PMID: 29264124; PMCID: PMC5730746.
3) Donoso P, Tournaye H, Devroey P. Which is the best sperm retrieval technique for non-obstructive azoospermia? A systematic review. Hum Reprod Update. 2007 Nov-Dec;13(6):539-49. doi: 10.1093/humupd/dmm029. Epub 2007 Sep 24. PMID: 17895238.


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