論文紹介 2024.07.01
男性の年齢と精子調整の方法の違いが胚発生や移植成績に与える影響についての論文のご紹介です。
Advanced Paternal Age: A New Indicator for the Use of Microfluidic Devices for Sperm DNA Fragmentation Selection
Laura Escudé-Logares, Clara Serrano-Novillo, Laia Uroz, Anna Galindo and Carmen Márquez
高齢化による不妊症への影響は女性の方が注視されがちですが、実は男性にもあります。
高齢男性については、精子数や精子運動率の低下以外にも、精子DNA損傷の割合の増加が報告されています。
また、一般的に治療に用いる運動精子は遠心分離を行って選別していますが、遠心分離を行うことで精子への物理的ダメージやそれに伴う精子DNA損傷率が増加してしまうことも報告されています。
精子数や精子運動率、精子奇形率などは通常の精液検査で調べることができますが、精子DNA損傷の程度は目視ではわかりません。
そこで、遠心分離を必要としない精子選別デバイスが開発されました。
そのデバイスは特殊な膜構造をしており、精子の運動性を利用し少ない工程で良好な精子を効率よく回収することで、物理的な精子DNA損傷を防ぐと同時に、活性酸素の発生が抑えられ精子DNA断片化が進行する可能性が低減されます。
この特殊な膜構造を通過できた形態が良好で運動性の良い精子を治療に用います。
今回の論文では、男性の年齢を45歳以上と未満に分け、精子調整方法を遠心分離と精子選別デバイスの2種類を用いて検討を行っています。検討項目は受精率・胚盤胞到達率・着床率・生児出生率・流産率になります。
年齢(男性) | 遠心分離 | 精子選別デバイス | ||
<45歳 | 受精率 | 71.7% | 76.5% | |
胚盤胞到達率 | 62.4% | 60.2% | ||
着床率 | 50.5% | 59.1% | ||
生児出生率 | 35.3% | 43.1% | ||
流産率 | 34.0% | 33.3% | ||
≧45歳 | 受精率 | 71.7% | 69.3% | |
胚盤胞到達率 | 50.1% | 64.4% | * p<0.05 | |
着床率 | 31.6% | 51.5% | * p<0.05 | |
生児出生率 | 23.7% | 42.4% | * p<0.05 | |
流産率 | 35.7% | 31.2% |
(Table3 一部改変)
この結果から男性の年齢が45歳以上の症例に関しては精子選別デバイスを使用した方が胚盤胞到達率、着床率、生児出生率が有意に高くなることが分かります。
以上の結果より、治療に精子選別デバイスを使用する基準として、男性の年齢を採用できる可能性があると述べられています。ただ、胚の成長や妊娠率、流産率にはほかにも多くの要因が関与しているため、使用基準に関しては慎重に検討する必要があると考察で述べられています。
現在、精子選別デバイスは条件を満たせば先進医療として保険診療と併用することが可能な技術です。
膜構造を用いた生理学的精子選択術 (先進)
条件:1回以上のART治療で移植可能胚が得られなかった、もしくは移植し妊娠に至らなかった症例 (厚生労働省)
当院でもどのような症例に対して有効なのか検討を進めているところです。
治療での使用のご希望や疑問点、不明点などございましたら問診時に医師にご相談ください。
盛岡培養部 及川
引用論文
Advanced Paternal Age: A New Indicator for the Use of Microfluidic Devices for Sperm DNA Fragmentation Selection
Laura Escudé-Logares, Clara Serrano-Novillo, Laia Uroz, Anna Galindo and Carmen Márquez
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10816896/pdf/jcm-13-00457.pdf
診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
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