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医療コラム

論文紹介 2024.07.08

卵子を凍結することによる影響やリスクはあるのか?

ガラス化凍結融解はARTにおいて広く用いられていますが、ガラス化凍結卵子は新鮮卵子と比較して受精率、胚発生率の低下や、凍結保存に対する脆弱性、異数性の増加などの問題が報告されています。これらのことから、ガラス化凍結が卵子の分子機構に何らかの影響を及ぼしている可能性が考えられます。

こちらの論文では、紡錘体チェックポイント(spindle assembly checkpoint : SAC)という、卵子成熟の過程で染色体が正しく分裂できるような状態が整うまで、細胞分裂の進行を抑える機能に着目して検討を行っていました。SACが正しく機能しないと、染色体が正しく分離できず、異数性発生の原因となることが先行研究で報告されています。こちらの論文では、マウス卵子を使用し、ガラス化凍結融解後の卵子の質が低下するメカニズムを明らかにすることを研究目的としています。

 

方法

マウスから第一減数分裂前期(GV期)の卵子を採取し、凍結融解を行った群(vitrified群)と新鮮卵子群(control群)に分けました。体外成熟培養(IVM)を行い、第一減数分裂中期(MⅠ期)、第二減数分裂中期(MⅡ期)の卵子をそれぞれ回収し、分析を行いました。

結果

  • ガラス化凍結融解をした卵子は、新鮮卵子と比較して、MⅠ期における染色体整列異常、紡錘体形成異常およびMⅡ期における異数性の増加がみられました。
  • SAC機能を阻害する成分(カテプシンB、カスパーゼ3)の阻害剤を培地に添加した場合、ガラス化凍結融解をした卵子の第一極体放出率やSAC機能に関連するタンパク質の局在は、新鮮卵子と同じレベルまで回復しました。
  • MⅠ期におけるリソソーム、SAC機能を阻害する成分、アポトーシスの活性について新鮮卵子とガラス化凍結融解をした卵子で比較したところ、ガラス化卵子ではリソソーム活性の低下と、SAC機能を阻害する成分の増加がみられました。

 

 

 

 

 

引用論文図表より一部改変

 

まとめ

  • -③の結果をまとめると、GV期卵子のガラス化凍結融解により、

Ⅰ 染色体の整列異常や紡錘体形成異常が生じる割合が高くなる

Ⅱ SAC機能を阻害する成分が活性化しSACが正しく機能しなくなる

Ⅲ Ⅰ、Ⅱが要因となり、異数性の割合が増加する

という分子機構の異常が生じている可能性があります。

また、SAC機能を阻害する成分の阻害剤を添加するとSAC機能が回復したことから、凍結融解を行った卵子の質を改善できる可能性が示唆されました。

 

今回の論文はマウスのGV期卵子を凍結融解した場合の影響について検討していました。ヒト卵子において同様の影響があるのかは不明です。

現在ARTで行われている卵子凍結は、MⅡ期まで進行した卵子を凍結している施設が多く、当院でも卵子凍結はMⅡ期で行っています。そのため、卵子成熟の過程に凍結融解が及ぼす影響は最小限であると考えられます。

 

当院コラムでは卵子凍結に関する話題も多数紹介しておりますので、ぜひお読みください。

 

引用論文:gaaa051.pdf (silverchair.com)


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