論文紹介 2018.02.13
今回も京野アートクリニック高輪から、ERA関連の論文をご紹介します。
体外受精以上の治療において、無事に受精卵が着床し、胎嚢が確認され、出産に至るために重要なことは、
が必要と考えられています。
受精卵側の染色体異常の有無を調べるための着床前スクリーニング検査は、世界では主流ではあるものの、日本では倫理的な観点から現在未だ臨床研究段階です。
そのため、正常な受精卵を戻しているにも関わらず、妊娠が成立しない方にとっては、着床環境へのアプローチが非常に重要な意味を持ちます。
当院では、ERA(子宮内膜受容能力検査)や子宮内フローラ、子宮内膜炎の検査などを包括的に行っていますが、今回はERAに関する最新情報をご紹介します。
この研究では2014年から2017年にかけて、過去に正常な胚を移植しても妊娠しなかった方88症例にERAを施行しました。
その結果、過去に1回以上正常な胚を移植しても妊娠しなかった方のうち、22.5%が「着床時期がずれている(Non-Receptive)」という検査結果となりました。
その上で、
過去1回以上正常胚でうまくいかない
→ERAを実施して、着床時期のずれがない
→通常通りの凍結融解胚移植を実施
過去1回以上正常胚でうまくいかない
→ERAを実施し、着床時期のずれがあると診断
→個別に最適な時期に合わせた凍結融解胚移植を実施
②の個別化した凍結融解胚移植グループの方が妊娠率・継続妊娠率が高い結果がでました。
(②個別化した移植vs①通常の移植)
また、このグループには、過去1回のみ着床しなかったという方と、反復して着床していない方が混在しており、一般的には、後者のほうが不成功となる確率が高いことから、 反復して着床していないグループだけでの①②の比較も行われました。
これによると、
という結果が得られたとのことです。
しかしながら、統計的な有意差は認められなかったと解説しています。
これは症例数が少ない点や、後方視的研究(治療を実行して、その結果を後から解析するタイプの研究)であったこと、対象となった患者年齢が若年であったこと、フォローアップした期間が短いなどが関係しています。
現在、ERAの実施施設は世界的にも増加しているため、今後より症例数を増やした大規模な研究、特に前方視的研究が求められることと思います。
この論文は、ERAと着床前スクリーニングを組み合わせた初めての研究報告です。妊娠の成立は何か単一の要素で成り立っているのではなく、良好な胚と良好な着床環境が重要と考えられていることから、 まず、正常な受精卵を選別することが重要であり、その上で移植時期の補正を行うことにメリットがあると著者らは強調しています。
また、正常かつ良好な胚でもうまくいかず、着床環境にずれがないという場合には、それ以外にどのような問題があるのか、そうしたアプローチも今後必要になると著者らは述べています。
今回の論文からも分かるように、やはり正常な胚を戻しても妊娠が成立しない場合、 着床時期がずれている患者さんが相当数存在し、改善の余地がある点に加え、正常胚の確率が高いと想定される若年の患者さんでなかなか着床に成功しない場合、ERAや子宮内膜フローラ検査を受けるメリットは十分にあると考えられます。
高輪副院長 橋本朋子
診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
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