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医療コラム

論文紹介 2018.01.24

1前核由来胚の染色体異常率って?

体外受精または顕微授精を行った翌日、私たちは2つの前核(奥様と旦那様の遺伝情報がつまったもの)を確認し、正常な受精と判断しています。

しかし、稀にその前核が1つしか確認出来ない場合があります。通院されている患者様の中にはそのような受精卵に出会ったことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。


今回紹介する論文は、1つの前核が確認された受精卵の培養成績や染色体異常率、そして妊娠・出産報告について、昨年海外から発表された論文です。

【論文タイトル】
Clinical use of monopronucleated zygotes following blastocyst culture and preimplantation genetic screening, including verification of biparental chromosome inheritance

【雑誌名】
Reproductive BioMedicine Online, Vol. 34, Issue 6, p567-574

【著者】
Cara K Bradley et al.

まず、正常受精が確認された受精卵(正常受精卵:2PN胚)と1つの前核しか確認出来なかった受精卵(1前核期由来胚:1PN胚)の胚盤胞への到達率を比較すると以下のような結果となりました。

1PN(通常の体外受精) 1PN(顕微授精) 2PN(通常の体外受精) 2PN(顕微授精)
検査した受精卵の個数 495個 697個 8487個 14861個
妻の平均年齢 37.7歳 36.6歳 37.6歳 36.6歳
胚盤胞到達率 26.0% 13.8% 54.2% 54.6%
良好胚盤胞到達率 53.7% 46.0% 62.8% 62.4%

1前核期由来胚の胚盤胞到達率および良好胚盤胞到達率は、通常の体外受精・顕微授精どちらの場合でも、正常受精卵と比較すると低い結果となりました。ちなみに、これは当院でも同様のデータが出ております。

続いて、染色体異常率についての結果です。

1PN(通常の体外受精) 1PN(顕微授精) 2PN(通常の体外受精) 2PN(顕微授精)
検査した受精卵の個数 74個 32個 2117個 2707個
妻の平均年齢 37.5歳 36.2歳 36.5歳 36.7歳
染色体異常率 39.7% 40.6% 41.1% 42.5%

胚盤胞に成長した受精卵では、1前核期由来胚でも正常受精卵でも染色体異常率に有意な差は認められませんでした。

さらに、染色体異常がなかった1前核期由来の胚盤胞を移植したところ、通常の体外受精では、20症例のうち6症例に妊娠が認められ、4名が出産まで至り、顕微授精では、6症例のうち3症例に妊娠が確認、1名が出産まで至っています。いずれも出生児に異常は認められていません。ただし、1前核期由来の受精卵の場合、片親性由来の染色体のみの可能性があるため移植には注意が必要である、と論文中では述べられています。

以上の結果から、1前核期由来胚でも、胚盤胞まで成長した受精卵で、PGSによって染色体異常がなく、かつ二親性であることが確認できた受精卵は、安全であることが示唆されました。

現在、日本では、PGSは認可されていないため染色体検査をすることは出来ませんが、当院では、2014年1月~2016年11月に胚盤胞移植した1前核由来胚(全て通常の体外受精由来)40症例のうち、8症例が妊娠、3症例が出産まで至っており、児に異常は認められていません。

仙台培養部 柴崎


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