論文紹介 2024.07.16
自動で顕微授精(ICSI)を行うことができるロボットを開発し、世界で初めて生児獲得に至ったという内容の論文をご紹介します。
ICSIは1992年から男性不妊症に対する治療のために導入されました。
通常ICSIは経験を十分に積んだ胚培養士によって行われていますが、施行する胚培養士の経験や技術によって成績が異なることがあります。
この論文では、ロボットを用いたICSIの自動化(Automated ICSI;通称ICSIA)について研究を行っています。
ICSIAは人工知能(AI)により卵子の解析を行い、精子を自動で注入することが可能なロボットです。
精子選別および精子の不動化や卵細胞質内に精子を放出する過程はオペレーターによる操作が必要ですが、操作はゲームのコントローラーのようなものを用いて行うことができるため、通常よりも簡便でありスキルを必要としないようです。
また、ICSIAが卵子に精子を注入するのに要する時間は1分ほどであり、これは培養士が行うのと同程度の時間です。
培養士経験のないオペレーターがICSIAを操作したものと熟練の培養士が従来のICSIを行ったもので培養成績を比較しました。
最初にマウス、ハムスター、ウサギの卵子を用いて検討を行いました。
結果、生存率や胚盤胞到達率に差はありませんでした。
次に、研究同意が得られた3人のヒト卵子を用いて検討を行いました。
ICSIAは14個中13個が受精し、良好胚盤胞が8個、Euploid(正倍数性)胚が4個得られました。
培養士による従来のICSIでは18個中16個が受精し、良好胚盤胞が12個、Euploid胚が10個得られました。
ICSIAによって得られたEuploid胚を2症例に移植したところ、それぞれの症例で健児出生に至りました。
考察ではICSIAの成績はヨーロッパの生殖医学会が提示している培養室の目安となるパフォーマンス指標の範囲内であり、申し分ないとしています。
また、Euploid率が低くなったのは精子の選別が培養士経験のないオペレーターが行っていることが関係していると述べられていました。
<まとめ>
ICSIを自動化する試みが臨床段階まで進んだのはこの研究が初めてだそうです。
自動化することで手技のプロセスに一貫性が生まれ、誰でも習熟した培養士と同程度の成績が期待できるようになります。
近年、世界的に不妊治療の需要が増加する一方、熟練した培養士は人手不足です。
ICSIAは将来的に人件費の削減や、地域や施設間の格差を減らし、患者様がより不妊治療にアクセスしやすくなることを目指しています。
<感想>
人の操作を必要とする部分が多く、現状の導入コストも高そうなので、実際に臨床に普及するにはまだまだ時間が掛かりそうですが、興味深い試みだと感じました。
最近はAIの研究が盛んで、AIがリアルタイムで良好精子の判別をしたり、卵細胞膜の最適穿刺位置を判定するようなものが開発されています。
このような技術を組み合わせることが出来れば、いつかICSIの一連の過程をロボットが全て行う未来がくるかもしれません。
現時点では、実施のN数も少なく、人と同等とみなすには時期尚早と思われますので、私達培養士はトレーニングを重ね、患者様からお預かりする大切な精子や卵子が良い受精卵になるよう努めてまいります。
仙台培養部 臼田
引用論文:
Costa-Borges, Nuno et al.
“First babies conceived with Automated Intracytoplasmic Sperm Injection.”
Reproductive biomedicine online vol. 47,3 (2023)
URL: https://www.rbmojournal.com/article/S1472-6483(23)00335-8/fulltext
診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
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