論文紹介 2024.07.30
寝苦しい季節になりました。多忙で気が立ってしまって眠りが浅くなる方も少なくないでしょう。男性不妊症の治療において、生活習慣の改善はとても大切です。特に、睡眠と精液所見の関係については、最近多くの研究で注目されています。今回は、睡眠の質や量が精液所見にどのように影響を与えるかについて、まとめてみました。
睡眠の質と精液所見の関連
良質な睡眠が精液所見に良い影響を与えると報告されています。夜間睡眠時間が 7.5~8.0 時間/日の男性と比較すると、睡眠時間が 6.0 時間未満の男性は、運動率および前進精子運動率が低下しました。また、睡眠の質を評価するピッツバーグ睡眠品質指数 (PSQI)で睡眠の質が良好 (総 PSQI スコア ≤5.0) の男性と比較すると、睡眠の質が不良 (総 PSQI スコア >5.0)の男性は総精子数、運動率、前進運動率が低下したとしています。1)
また、長すぎる睡眠時間も良くないとする報告もあります。1日7~8時間の睡眠が、精液所見に最も良い影響を与えるとされています。逆に、6時間未満の睡眠不足や、9時間以上の長時間睡眠は、精子の濃度や運動率の低下と関連すると報告されています。2)
睡眠障害と精子のDNA損傷
睡眠障害が精子のDNAにダメージを与えることも報告されています。睡眠時無呼吸症候群の男性は、正常な睡眠を取っている男性に比べて、不妊症を発症するリスクが 1.24 倍高く、また精子のDNA損傷率が高いと報告されています。3)
昼夜逆転と精液所見
昼夜逆転の生活習慣が精液所見に悪影響を与えるという報告もありました。シフトワークなどで昼夜逆転の生活をしている男性は、精子の運動率が低下し、形態異常率が上がることが報告されています。4)
規則正しい生活習慣
職種などで致し方ない部分もありますが、可能な限り、毎日同じ時間に寝起きすることで、体内時計のリズムを整えることができます。体内リズムの乱れは睡眠を浅くし、質を落とすリスクになります。
適度な運動
適度な運動は、睡眠の質を改善するために効果的です。ただし、寝る直前の激しい運動は避けましょう。
リラクゼーション
寝る前にリラックスする時間を持つことで、深い睡眠を促すことができます。携帯電話や、モニターの光は刺激になり覚醒度を上げてしまいます。できればそれらの画面は見ないで、音楽を聴いたり、ストレッチなどの軽い運動をすることをお勧めします。
睡眠環境の整備
静かで暗い環境を整えることが、良質な睡眠を取るために重要です。まくらの高さが合わないと睡眠時の呼吸がしにくくなり、眠りが浅くなります。いびきの強い方は、一度、睡眠時無呼吸の検査を受けることをお勧めします。自分も使用していますが、非常に眠りか深くなり快適です。
どうしても眠れない方へ
やはり寝付けない、中途覚醒する方などは、メンタルクリニックや、かかりつけの病院などで、一時的にでも睡眠薬などの処方を受けることも必要です。最近の薬は依然と比較し安全で種類も豊富です。眠れない悪循環にはまっていると、なかなか抜け出せませんが、一度よく眠って体調を取り戻せばまた良いリズムに戻ることも可能です。当院でも初期の不眠の治療は対応いたしますのでご相談ください。
男性不妊症の治療において、睡眠の質と適切な量は精液所見に大きな影響を与える重要な要素です。生活習慣を見直し、良質な睡眠を確保することで、精液所見の改善が期待できます。ぜひ、日常生活に取り入れてみてください。
Zhang, M., et al. (2016). “Sleep duration and quality in relation to semen quality in healthy men screened as potential sperm donors: a cross-sectional study.” Scientific Reports, 6: 39051.
Liu, C., et al. (2017). “Sleep duration and quality among men in relation to semen quality and reproductive hormones: a cross-sectional study in China.” Journal of Sleep Research, 26(4): 436-445.
Li, F., et al. (2018). “Sleep Apnea and Sperm DNA Damage: Evidence from a Population-Based Study.” American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine, 197(2): 281-283.
Lammers, M., et al. (2018). “Shift work and its impact on male reproductive health: A systematic review and meta-analysis.” Fertility and Sterility, 110(3): 429-436.
診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
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