コラム 2024.08.13
前回のコラムでTESEが出来るクリニックは3種類あることを述べました。
A. TESEを行うが、精子検索、凍結処理、ICSIの一部もしくはすべてを他院に委託する
B. TESEを行い、精子検索、凍結処理は自身のクリニックか、提携している決まったクリニックが行い、その提携クリニックでICSIする。
C. TESEからICSIまで1つのクリニックで完結する。
もし自分がTESEを受けるなら、なぜ僕は”C”の一つの病院で完結できるところを選ぶのかを述べていこうと思います。
これはメリットとデメリットはっきりさせていくとわかりやすくなります。
大事なことは、とくにMicro TESEでは再度精子を回収することが非常に難しいということと、最後の目的は妊娠であるということです。
当院ではTESEをするときは、手術中に培養士が待ち構えていて、採取した組織をすぐに培養室で処理し精子検索します。その様子は手術室のモニターに映り、術者は術野の精巣の状態と、細胞の状態を見比べながら手術ができます。この処理には数人の培養士が専属で対応します。
このメリットは手術中に術者が精子の状態がわかるため、精子の動きや形、濃度などで、より良い部位を選んで採取できることです。十分な組織が取れればそこで手術を終了できるので、精巣のダメージも最低限で終わることができます。
デメリットはクリニックにとっては十分な人員、器材、設備を準備することが大変ですが、これは医療機関として当然のことですし、患者さんの損失にはなりません。
手術中に精子検索を行わない場合、術者が精子の状況がわからないため、TESEは見た目によさそうな部位をとってくるだけになります。必要以上に組織をとって精巣のダメージが大きくなったり、精子がいても本当にいい組織が取れているのか分かりません。
約15年前に、大学で不妊治療の勉強をし始めたころは、TESEには培養士は付けられませんでした。大学では各科共有の巨大な手術室でTESEをするため、培養室が別の棟にあり、培養士がタイムリーに精子検索できる環境ではなかったためです。当時から改善したいと思い、徐々に手術室に顕微鏡を置いたり、モニターを置いたりして、培養士も増員してもらい、何とか培養士が一人同行出来るようなりました。そうして手術室内で精子検索が出来るようになりましたが、やはり今の環境に比べれば次不十分だったと感じます。
冒頭に書いた精子を再回収するのが困難ということはここに繋がります。
特にMicro TESEで回収した精子は弱弱しいことが多く、数も多くありません
。愛護的に扱う必要があり、不要な環境変化やストレスは可能な限り避けることがのぞましいです。トラブルで万が一破損してしまったら、目も当てられないので、リスクを限界まで低くする環境整備が必要です。
当院では同じ培養室で組織を検索、凍結し、ICSIも行うため組織の移動は最低限です。手術室のドア1枚向こうが培養室なので、移動は数mでしょう。そのため、温度変化や汚染、破損のリスクは最低限にとどめられています。
もし、凍結した組織を搬送する場合は液体窒素に沈めて専用機材で運びますが、やはり大きな保存タンクに比べれば温度が安定しにくく、組織にとって良い状況ではありません。TESEの組織検索を別の病院でおこなう場合は、凍結しないで運ぶ必要があるので、人肌で急いで持っていきます。その場合は通常の精子と同じで、時間経過とともに運動率が落ちたり、細胞の変性が起こることが考えられます。
さらに組織搬送の際に、万が一の事故で破損したら復旧は困難です。
搬送するメリットを上げるとすれば、希望する病院で婦人科の治療が出来るということになりますが、そもそもそれなら、その病院でTESEをするのが望ましいです。
また搬送する際は、自己責任で器材を借りて患者さん自身で搬送するか、搬送業者を使います。病院は基本的に責任を持ってくれません。患者さんが自身の意志で移送を希望したという形になります。その際のコストは器材のレンタル料と液体窒素の費用、諸々の書類など手続き手数料がかかることが多いです。
生体組織の専門の搬送業者を使用して運ぶ場合は、短距離でも数万円から十数万円の搬送量がかかります。破損した場合は保証制度もありますが、精子が戻ってくるわけではありません。
当然、搬送自体ををしなければそういったコストもかかりません。
お気づきかもしれませんが、同一クリニック内でTESEからICSIまで行うのが、余計なことを全くしないので、最もコストがかかりません。当然リスクも少ないと言えます。ほぼすべてのことが保険適応となります。
前述のように搬送には搬送代、紹介状代、器具の貸出代など、万単位でコストがかかります。さらに精子の劣化や破損のリスクも付きまといます。
それ以外にも、同一クリニック内で精子を検索評価し、ICSIに進むメリットは多々あるのですが、今回は長くなるのでこの辺で一旦終了とします。次回は培養室の実情も踏まえつつ、TESE組織を使ったICSIの話をしようと思います。
診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
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