論文紹介 2024.08.27
ICSI後の受精率が低い症例に対する、人為的卵子活性化(AOA)の効果と安全性について調査された論文を紹介します。
1992年、ICSIによる妊娠例が報告され、重度の精子機能障害を抱えるカップルをはじめ、男性不妊における治療が進歩しました。
その後の調査でも明らかなように、不妊原因の半数に男性が関わっていると報告されており、ICSIの実施件数は年々上昇傾向にあります。
現在、ICSIの受精率は65%を超えると報告されておりますが、ICSI周期の1~3%で全受精障害(全く受精しない状況)が発生しています。
この原因の1つとして挙げられるのが、卵子活性化欠損(OAD)であり、この受精障害を克服するために開発されたのがAOAです。
日本ではAOAは保険適用となっております。
AOAにはいくつかの種類がありますが、今回の論文は、Ca²⁺イオノフォアを用いた方法で、卵細胞膜のCa²⁺透過性を高め、卵子活性化を促すというものです。
Ca²⁺イオノフォアは卵子への損傷が最小限に抑えられると期待されており、多くの施設で使用されていますが、施設間でのプロトコルはいまだ多様で確立されていません。
そこで本研究では、AOAの効果と安全性を確立することを目的としました。
対象は、ICSI後の受精率が50%以下のカップルで、ICSI単独の周期ICSI後AOAを行った周期で比較をしました。
結果は、ICSI後AOAを行った周期の受精率はICSI単独の周期よりも有意に高く、また、妊娠率、出生率もAOAを行った周期で有意に高くなりました。対して、変性、流産、早産、先天性異常の発生率は2つの周期で有意な差は認められませんでした。
Category | Conventional ICSI | ICSI-AOA | P-value |
ICSI cycles | 247 | 402 | NA |
Female age at the oocyte retrieval (years) | 36.7 ± 3.9 | 37.7 ± 3.7 | <0.001 |
FSH/hMG dose (IU) | 2579.8 ± 2456.8 | 2238.0 ± 1419.5 | NS |
Oocytes retrieved | 8.0 ± 5.7 | 7.3 ± 5.8 | NS |
Matured oocytes | 5.7 ± 4.3 | 4.8 ± 4.2 | <0.05 |
*Fertilization rate (%) | 20.8 (285/1372) | 53.7 (1016/1893) | <0.001 |
*Developmental rate of good cleavage stage embryos (%) | 22.1 (63/285) | 36.9 (375/1016) | <0.001 |
*Developmental rate of blastocyst embryos (%) | 17.2 (49/285) | 30.1 (306/1016) | <0.001 |
*Developmental rate of good blastocyst embryos (%) | 6.3 (18/285) | 12.3 (125/1016) | <0.01 |
*Degeneration rate (%) | 13.3 (183/1372) | 11.7 (221/1893) | NS |
ET cycles | 85 | 316 | NA |
ET cancellation rate (%) | 57.5 (142/247) | 25.6 (103/402) | <0.001 |
*Biochemical pregnancy rate (%) | 11.8 (10/85) | 35.4 (112/316) | <0.001 |
*Clinical pregnancy rate (%) | 11.8 (10/85) | 28.2 (89/316) | <0.01 |
*Live birth rate (%) | 4.7 (4/85) | 18.0 (57/316) | <0.01 |
Miscarriage rate (%) | 60.0 (6/10) | 29.2 (26/89) | NS |
Preterm birth rate (%) | 0.0 (0/10) | 6.7 (6/89) | NS |
Congenital malformation rate (%) | 0.0 (0/10) | 2.1 (1/89) | NS |
(table1 一部改変)
次に、35歳以下と36歳以上にグループ分けをしました。結果は、受精率は2つのグループともに、AOAを行った周期で有意に高い結果となりました。妊娠率、出生率は35歳以下のAOAを行った周期でICSI単独の周期よりも有意に高い結果となりました。
Category | Conventional ICSI | ICSI-AOA | P-value | Conventional ICSI | ICSI-AOA | P-value |
ICSI cycles | 115 | 195 | NA | 132 | 207 | NA |
Female age at the oocyte retrieval (years) | 34.1 ± 3.8 | 35.2 ± 3.6 | <0.05 | 39.0 ± 2.0 | 40.1 ± 1.6 | <0.001 |
FSH/hMG dose (IU) | 2294.5 ± 1164.8 | 2246.8 ± 1266.8 | NS | 2833.3 ± 3171.6 | 2229.8 ± 1547.1 | NS |
Oocytes retrieved | 9.1 ± 5.9 | 8.3 ± 6.2 | NS | 7.0 ± 5.4 | 6.3 ± 5.2 | NS |
Matured oocytes | 6.4 ± 4.4 | 5.4 ± 4.5 | <0.05 | 5.1 ± 4.1 | 4.3 ± 3.7 | NS |
*Fertilization rate (%) ** | 23.5 (170/722) | 53.0 (549/1036) | <0.001 | 17.7 (115/650) | 54.5 (467/857) | <0.001 |
Developmental rate of good cleavage stage embryos (%) | 21.8 (37/170) | 34.6 (190/549) | <0.01 | 22.6 (26/115) | 39.6 (185/467) | <0.001 |
*Developmental rate of blastocyst embryos (%) ** | 15.9 (27/170) | 27.5 (151/549) | <0.01 | 19.1 (22/115) | 33.2 (155/467) | <0.01 |
*Developmental rate of good blastocyst embryos (%) ** | 7.1 (12/170) | 12.9 (71/549) | <0.05 | 5.2 (6/115) | 11.6 (54/467) | <0.05 |
*Degeneration rate (%) ** | 11.8 (85/722) | 12.4 (128/1036) | NS | 15.1 (98/650) | 10.9 (93/857) | <0.05 |
ET cycles | 51 | 162 | NA | 34 | 154 | NA |
*ET cancellation rate (%) ** | 47.0 (54/115) | 25.1 (49/195) | <0.001 | 66.7 (88/132) | 26.1 (54/207) | <0.001 |
Biochemical pregnancy rate (%) | 5.9 (3/51) | 35.8 (58/162) | <0.001 | 20.6 (7/34) | 35.1 (54/154) | NS |
Clinical pregnancy rate (%) | 5.9 (3/51) | 32.1 (52/162) | <0.001 | 20.6 (7/34) | 24.0 (37/154) | NS |
Live birth rate (%) | 0.0 (0/51) | 19.1 (31/162) | <0.001 | 11.8 (4/34) | 16.9 (26/154) | NS |
Miscarriage rate (%) | 100.0 (3/3) | 30.8 (16/52) | NA | 47.9 (3/7) | 27.0 (10/37) | NA |
Preterm birth rate (%) | 0.0 (0/3) | 5.8 (3/52) | NA | 0.0 (0/7) | 8.1 (3/37) | NA |
Congenital malformation rate (%) | 0.0 (0/3) | 0.0 (0/52) | NA | 0.0 (0/7) | 2.7 (1/37) | NA |
(table2 一部改変)
考察です。
まず、AOAの効果についてです。
AOAはICSI単独に比べて、出生率を有意に改善しました。AOAを行うことで、受精率、胚発生率、出生率が改善されたことから、AOAのメカニズムが受精後の胚発生および着床プロセスに関与している可能性が考えられました。
次に、AOAの安全性についてです。
先天性異常は今回の研究では確認されませんでした(合計61人の乳児)。
一方で、AOAの安全性に対して否定的な意見を示す報告もなされているため、AOAのプロトコルを確立させるためには濃度、曝露時間などを含め、さらなる研究が必要です。
今回の研究が、ICSI後のCa²⁺イオノフォアを用いたAOAの臨床応用の増加につながることを期待し、また、AOAが最も効果的な対象者についてもさらなる研究が必要だと示されていました。
当院では低い受精率(30%以下)、全く受精しない方を対象に、今回論文で紹介されていたCa²⁺イオノフォアを用いたAOAの他に、塩化ストロンチウムを用いたAOAを取り入れております。当院での発育調査の結果、体外受精で産まれた他お子さんと、先天性異常などに違いは認められておりません。
できることなら一度の治療で妊娠・出産へ繋げられるのがベストですが、うまくいかない場合もございます。うまくいかなかった状況の原因を見定め、より安全で効果的な、患者様一人一人にあった適切な治療をご提案できるよう、これからも努めて参ります。
ご質問、ご不明な点がございましたら、お気軽にお尋ねください。
京野アートクリニック仙台
培養部 川口菜摘
引用論文:
Artificial oocyte activation using Ca2+ ionophores following intracytoplasmic sperm injection for low fertilization rate.
Front Endocrinol (Lausanne). 2023 Mar 9;14:1131808.
診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
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