医療コラム

より良い精子の選び方

今回は前回の①とした現在の精子の中で出来るだけ損傷の低いものを選択する方法について書いていきます。
通常精子のDNA損傷を測定する場合は、何%位損傷されているかという数値で判断します。そのため、「この精子は損傷しているもの、あの精子は損傷していないもの」と分けることは出来ず、検査で染色などの処理してしまうため顕微授精に使うこともできません。そのため、精子を選別するには検査とは違う方法が必要になります。
現在代表されるものは、Physiologic Intracytoplasmic Sperm Injection（PICSI）とスパームセパレータです。
どちらも保険診療中に併用して行える自費診療である先進医療として使用できます。東京都在住の方は、先進医療に対して補助金が出る場合がありますので、こちらのHPをご確認いただくか、当院で治療中の患者様は受付までお問い合わせください
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kodomo/kosodate/josei/funin-senshiniryou/gaiyou

PICSI

この方法はもともと成熟精子を選別する方法でした。成熟精子は、ヒアルロン酸に結合できるという性質を用いており、その後の検討でこの方法で選別された精子はDNA損傷が低いことがわかりました。PICSIは人間の眼だけではなく、ヒアルロン酸の膜に付着した精子を選別し、ICSIを行う方法です。当院のコラムでも論文紹介させていただいていましたので引用します。

この論文では一度ICSIをして、うまくいかなかったカップルにそのままもう一度ICSIを繰り返すのと、PICSIをしたのとで比較しています。胚の分割率、良好胚率、胚盤胞到達率、妊娠率、流産率とほぼすべての数値がPICSIが有意に高くなりました。
このPICSIは、比較的少ない精子の方も使用できますが、あまりにも少ない方や、動きの悪い方などはヒアルロン酸に精子が接着できないこともあります。また精液所見がある程度あっても、接着する精子が見られない場合は精子の選択に時間がかかったり、最終的に良好と判断される精子がICSI出来ないこともあります。

スパームセパレータ

PICSIと比較し、スパームセパレータは新しい精子の調整方法です。通常、精子を調整するためには密度勾配遠心法やSwim-UP法で精子を選別します。その際に遠心分離をかけ、重いもの（成熟精子）を分離し回収します。その際の遠心分離が精子にダメージを与え、DNAの損傷をきたすと考えられています。
スパームセパレータは、遠心をかけるのではなく、精子にハードルを与え、それを超えられるものは良い精子であるいう考え方です。遠心をかけないので精子に余計なダメージが入ることもありません。
この方法で調整された精子は密度勾配遠心法で処理されたサンプルおよび未処理サンプルと比較して、精子のDNA損傷率が有意に減少したとしています。1)
精子のDNA損傷率が低い精子を使用することでARTの成績が向上するとしている論文も散見され、反復不成功の対策としては注目されています。
スパームセパレータを使用する場合はある程度精子の濃度と運動率が必要になります。濃度や運動率が低すぎる場合や良好精子の枠に精子が入ってこない場合などでは、良い精子が回収できないことや顕微授精までの時間が長くなる可能性があります。

メリットデメリットをよく理解して

これらの方法は使って改善が認める方もある一方、あまり効果なない方もいらっしゃいます。
妊娠率や出産率の向上を示す研究は増えていますが、またまだ新しい技術のため、 サンプルサイズが小さいものも多く、効果の確実性に関してはさらなる研究が必要です。また、長期的な効果や他の治療法との比較について、十分に証明されていない点が残されています。またスパームセパレータはいくつかのメーカーがあり、どこのものが良いかも今後評価される必要があります。
現時点ではどちらも先進医療として使用する場合は授精方法がICSIに限定されますので、IVFとICSIを両方一度に行うことは出来ません。
しかしながら、患者さんには侵襲的な処置をするわけでもなく、比較的簡便に行えますので、気になった方はご相談ください。
費用はスパームセパレータが25000円、PICSIが22000円（税込み）となります。

次回は、精子をよくする方法を中心にかいていこうと思います。

1)　Quinn MM, Jalalian L, Ribeiro S, Ona K, Demirci U, Cedars MI, Rosen MP. Microfluidic sorting selects sperm for clinical use with reduced DNA damage compared to density gradient centrifugation with swim-up in split semen samples. Hum Reprod. 2018 Aug 1;33(8):1388-1393. doi: 10.1093/humrep/dey239. PMID: 30007319.