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医療コラム

コラム 2025.01.28

保険診療で正しい男性不妊治療を 反復不成功のはなし③ 精子の質が悪い場合の対策 -精子の質を上げる方法-

精子の選別の限界

PICSI、スパームセパレータなどが開発され、より良い精子の選別が出来るようになりました。しかしながら、これらの方法はICSIが必要である一方、ある程度の精液所見が必要になります。非常にシビアな高度乏精子症、精子無力症の方や、ICSIでない方法を希望される方、これらの選別法を用いてもやはりうまくいかない方は、自身の精子を改善する方法をとる必要があります。
そしてその治療は男性不妊の分野が昔からやってきたことでした。

精索静脈瘤

以前も書いたかもしれませんが、精索静脈瘤の手術で精子が良くなるだけでなく、ARTの成績が改善するという報告が最近多くみられます。その一つの要因として精子のDNA損傷率の改善が挙げられます。

この論文は前向き研究で360人の精索静脈瘤手術を行った患者の精液検査とDNA損傷率を術前、術後6.12.18ヶ月で調査しました。1)
術後に総運動精子数は大幅に改善しています。

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精子の DNA 断片化指数 (DFI) の平均は、術前 31.40 ± 0.52%、術後 6 か月で 28.20 ± 0.32%、12 か月で 25.90 ± 0.31%、18 か月で 20.50 ± 0.40% とこちらも有意に改善していました。 (P<0.001)。

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精索静脈瘤の手術は精液所見も改善するため、精子濃度や運動率の問題でPICSIやスパームセパレータが使用できなかったかたが使えるようになる可能性もあります。そもそもDNA損傷率も改善するため、使用しないでもARTの成績向上が見込めます。
PICSIやスパームセパレータは今ある精子から選ぶ以上、自分が持つものの中でいいものという限界があります。精索静脈瘤の手術はその限界点を押し上げる治療になります。OPEになるのでやはりリスクはゼロではなく、全員が改善するわけでもありません。しかし、数少ない状態改善の治療であり、エビデンスレベルも上がっていることから、精子の所見改善だけでなく、ARTの成績への影響が評価される治療になっています。
当院での日帰り精索静脈瘤手術は、不妊治療を保険診療で行う条件を満たせば、保険で対応しております。費用は自己負担で片側約5万円となります。

精巣内精子回収術

精巣内の精子は射出精子よりもDNAの損傷が低いことは以前から報告されています。そのため、あまりに成績が芳しくない方については精巣内精子回収術(TESE)で精巣内精子を取り、その精子でICSIを行うことも選択に入ります。
この報告では、61名の不妊男性は精巣精子とICSIの併用を受け、残りの41名の男性は最初のICSI周期で射精精子を使用し、それらのデータを収集して分析しています。18か月の追跡調査では、精巣精子は射精精子群よりも高い妊娠率と出産率を示しています(妊娠率36%対14.6%、p = 0.017、出産率38.5%対9.8%、p = 0.001)。2) もちろんこの方法が全ての人に勧められるものではありませんが、最後の手段として行う場合もあります。

色々な方法を持っていることが重要

この一連のコラムで最初にも書きましたが、不妊治療は問題を一つ一つ解決し、妊娠・出産に届くことが目標です。例えば男性不妊を行っていない不妊クリニックであれば、男性の検査を深く行わずARTを進めていきます。しかし、成績が伴わなかった場合などは、PICSIやスパームセパレータを行うことはあるでしょう。男性不妊しかしていないクリニックなら、精索静脈瘤手術はするかもしれませんが、ARTは他院にお任せとなり奥さんの治療経過を見ながら、タイムリーな関わりを持つことは難しいかもしれません。
当院ではできうる限り多くの治療パターンを持つことで、同時進行的に患者さんの状態を改善し、タイムロスを最小限に治療を行っていくことを目標にしています。精索静脈瘤手術してPICSIを用いる場合もありますし、TESEをする必要がある患者さんで精索静脈瘤があればそれを治してからTESEとやるでしょう。様々な治療経過の中で、精索静脈瘤の手術やPICSIやスパームセパレータ、他の内科的な治療なども絡め、出来るだけ早く高い確率で妊娠・出産に手が届くようにご協力させていただくよう努力しております。
これらの治療にご興味のある方は一度受診頂ければと思います。

1) Rochdi C, Bellajdel I, El Moudane A, El Assri S, Mamri S, Taheri H, Barki A, Mimouni A, Choukri M. The Effects of Varicocelectomy on Sperm DNA Fragmentation and Conventional Semen Parameters in Men with Severe Oligoasthenoteratozoospermia: A Prospective Study. Int J Fertil Steril. 2024 Jun 9;18(3):248-255. doi: 10.22074/ijfs.2023.2002260.1465. PMID: 38973278; PMCID: PMC11245582.

2) Zhang J, Xue H, Qiu F, Zhong J, Su J. Testicular spermatozoon is superior to ejaculated spermatozoon for intracytoplasmic sperm injection to achieve pregnancy in infertile males with high sperm DNA damage. Andrologia. 2019 Mar;51(2):e13175. doi: 10.1111/and.13175. Epub 2018 Nov 26. PMID: 30474187.


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