コラム 2025.02.17
最近「ダイエット」と検索すると、ダイエットクリニックがたくさん表示され、注射剤や飲み薬でのダイエットの情報がたくさん出てきます。このようなクリニックで使用されているのはGLP-1受容体作動薬という種類のものが多くみられます。これらは日本での適応は糖尿病と高度肥満(一部のものに限る)に対しての治療薬となっています。僕としては通常体型の方がダイエットにこれらを用いることには、医療的な意義がないので反対ですが、糖尿病の治療薬としても比較的安全性が高く、体重減少効果や、食欲の抑制効果もあるので、特に体重の重い方に対しては優れた薬だと考えています。
以前からある糖尿病の治療薬は、血糖値を下げるインスリンを強く出す作用を持つものもあり、低血糖などのリスクがありましたが、この薬は小腸に作用して、GLP-1というホルモンを出し、それが膵臓に働くことでインスリンを作ることを促します。この薬がいいところは、食事をしていないとき、つまり血糖値が高くないときにはGLP-1は分泌されず、インスリンも出てこないため低血糖を起こしにくいとされています。また、脳に作用して食欲を抑える効果があり、他の薬よりも体重減少効果が高いと言われています。1)
しかしながら、嘔気や胃の不快感など副作用の発言頻度も高いため、やはり医療的に糖尿病を改善させる必要がある方、体重を落とす必要がある方に使用するべきと考えます。
これらの薬は肥満が社会問題になっているアメリカなどで以前から使用されており、糖尿病治療、高度肥満の減量に高い効果を上げています。
基礎的な研究では、セルトリ細胞とライディッヒ細胞に GLP-1 受容体が存在することが確立されています。Caltabianoらの研究では、GLP-1受容体が腫瘍抑制、ライディッヒ細胞機能、ホルモン分泌と機能に影響しており、精子形成に重要なグルコースによるエネルギー代謝の調節因子としても指摘されています。3)
肥満が精子に悪影響を起こすことは以前コラムでも触れましたが、肥満自体が精液所見に悪影響を及ぼします。
今回の論文では、いくつかの報告がまとめられていますが、GLP-1受容体作動薬により肥満が改善することで、精液所見の改善、精子のDNA損傷の改善、男性ホルモンの上昇などが示されていました。これらの変化がGLP-1精巣に直接作用してのことなのか、肥満が改善し様々な有害物質が体から減っていったためなのかはまだはっきりしませんが、結果として肥満の男性に対してはGLP-1受容体作動薬が精液所見が改善する方向に働くようですし、今のところ精子への問題の報告も限定的です。
ただし、海外の報告のため、BMIが30を超える方が対象となっており、一概に東アジア系の多い日本のデータに直結できるかは疑問が残ります。
また、急激に体重が落ち過ぎてしまうと、エネルギーの消耗により一過性に精液所見が悪くなる可能性は考えられます。しかし、適正体重で安定すれば一般的には元に戻る変化と考えていいと思います。
これらの論文を読む限りは、過体重の方が減量をすることで精液所見の改善が見込めると言えます。糖尿病も精子には良くないので、そのコントロールがつくことも精子形成には有利に働くでしょう。
薬自体には、精子に大きな問題があるということは今のところ報告されていませんし、この薬を使うことで、適正体重になり、糖尿病が良くなって健康になることで精液所見が改善すると考えるのが今のところいいのかもしれません。今のところ日本では糖尿病が適応のメインになっていますが、思い当たる方は放置せずに治療を行ってみるのも妊活の一助になると思われます。
1) GLP-1 受容体作動薬の体重減少効果 上野 浩晶1) 中里 雅光2) 〔糖尿病 60(9):570~572,2017〕
2) Varnum AA, Pozzi E, Deebel NA, Evans A, Eid N, Sadeghi-Nejad H, Ramasamy R. Impact of GLP-1 Agonists on Male Reproductive Health-A Narrative Review. Medicina (Kaunas). 2023 Dec 27;60(1):50. doi: 10.3390/medicina60010050. PMID: 38256311; PMCID: PMC10820247.
3) Martins AD, Monteiro MP, Silva BM, Barros A, Sousa M, Carvalho RA, Oliveira PF, Alves MG. Metabolic dynamics of human Sertoli cells are differentially modulated by physiological and pharmacological concentrations of GLP-1. Toxicol Appl Pharmacol. 2019 Jan 1;362:1-8. doi: 10.1016/j.taap.2018.10.009. Epub 2018 Oct 6. PMID: 30296456.
診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
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