論文紹介 2025.03.03
凍結乾燥(フリーズドライ)処理をした精子の長期室温保存の安全性について調査した論文を紹介します。
Method for long-term room temperature storage of mouse freeze-dried sperm
(マウス凍結乾燥精子の長期室温保存法)
Yuko Kamada et al. Scientific reports 2025
現在、精子や卵子の保存は液体窒素による凍結保存が主流となっています。
しかし、さらに簡易的かつ安価な保存方法がないか、様々な研究が行われてきました。
例として、凍結保護剤を調整した冷凍保存、エタノールを利用した冷蔵保存、NaClや砂糖を利用した室温保存といった研究が行われましたが、これらの方法で精子の長期保存には成功していませんでした。
今回紹介する凍結乾燥精子も、処理後に運動性を失ってしまうため受精には利用できないことが課題となっていました。しかし、1995年マウス用の顕微授精の方法が開発されたことから凍結乾燥精子の研究が発展し、1年間室温保存した凍結乾燥精子から子孫を得られることが報告されました。
本研究では、凍結乾燥精子が簡便かつ安全に、さらに長期保存できることを実証することを目的に、最長6年間室温保存されたマウスの凍結乾燥精子を用いて実験が行われています。
対象は8~10週齢の4系統(ICR、BDF1(C57BL/6 N×DBA/2)、C57BL/6 N、C3H/Heマウス)のマウスです。
調査の結果、以下のような結果が得られました。
・凍結乾燥精子は頭部と尾部の分離率が高くなった。
・凍結乾燥精子を用いた顕微授精後の受精率は保存年数が長くなるにつれて低下するが、塩化ストロンチウムによる卵子活性化処理をおこなうことによって改善した。
・2細胞期の異常染色体分離(ACS)率は高くなるが、塩化ストロンチウムによる卵子活性化処理をおこなうことによって改善した。
・凍結乾燥処理後の長期保存による産仔数の減少はみられなかった。
・すべての系統のマウス凍結乾燥精子から子孫が得られた。
・胚移植後、各系統1世代目の子孫はすべて正常に発育した。その後1世代目の子孫はさらに2世代目の子孫を出産し、凍結乾燥精子由来1世代目の子孫の繁殖能力が正常であることが確認された。
マウスの遺伝子の8割は人間と同じとされています。マウスを用いた研究の発展が人の医療技術の進歩につながり、さらにクオリティの高い技術を提供できるようになるかもしれません。
論文URL
https://www.nature.com/articles/s41598-024-83350-2
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