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医療コラム

学会報告 2025.03.21

乳癌罹患者における生殖補助医療(ART)成績の評価

第15回日本がん・生殖医療学会に参加してまいりました。

 

がんと生殖医療については、以前コラムでご紹介しております。

コラム:がんと生殖補助医療

 

今回、わたしは乳がんに罹患した方において、妊孕性温存をした方と、がん治療が終わってから体外受精を行った方の成績を評価することを目的とし、検討・学会発表を行いました。

また、乳癌患者における妊孕性温存について、2023年に報告を行っております。

コラム:若年乳癌患者への妊孕性温存と融解後の治療の状況について

 

乳がんは罹患数の多いがん種で、現在は日本人の9人に1人が乳がんに罹患すると言われています。

乳がんは比較的予後が良く、5年生存率は遠隔転移のあるステージⅣを除き80%以上となっています。

また、乳がんだけでなく、他のがんでも新薬の登場など医学の進歩により、がんを克服された「がんサバイバー」の方が多くいらっしゃいます。

 

罹患年齢やがん治療で使用される薬剤によっては、その副作用で女性では「卵子の数が減ってしまう=妊孕性の低下」が危惧されており、失われる可能性がある妊孕性を温存することが推奨されています。

日本だけでなく海外でも妊孕性温存の効果について報告があり、その有用性が確かなものになりつつあります。

 

しかし、様々な理由で妊孕性温存を行わなかったとして、本当に妊娠や出産ができないのか?という検討はあまり行われていません。

したがって今回の検討では、当院に受診した乳がん罹患者のうち、妊孕性温存を行った症例(FP群)147症例、がん治療が終わってから生殖補助医療(ART)を行った症例(CS群)45症例のART成績を評価しました。

 

<結果>

 

患者背景

  FP群(n=147) CS群(n=45)
初診時年齢(平均±SD) 35.8 ± 4.5 歳 39.2 ± 3.4 歳
AMH値(平均±SD) 3.6 ± 3.3 ng/mL 1.9 ± 1.8 ng/mL

 

患者背景は両群で異なりました。

 

採卵周期の成績については、以下の表でお示しします。

  FP群 CS群
  卵子凍結 受精卵凍結 卵子+

受精卵凍結

受精卵凍結
症例数 71 73 3 45
周期数 101 99 3 117
採卵数

[中央値(最小-最大)]

7(0-36) 個 3(0-22) 個
移植・凍結数

[中央値(最小-最大)]

5(0-25) 個 3(0-14) 個 1(0-11) 個
移植・凍結なし(%) 6.1% (12/198) 25.4% (29/114)

 

FP群は年齢やAMH値、またより多くの卵子・凍結数を得ることが目的のため、採卵数や凍結数も多い結果でした。

CS群においても同様のことが言え、年齢や卵巣予備能の状態により、採卵周期の成績が異なることが分かりました。

 

 

FP群のうち、がん治療がひと段落・終結し、凍結した卵子や受精卵を使用し移植を行った症例は40症例(全体の27.2%)でした。

 

実際の胚移植の成績は以下の図のようになりました。

 

 

症例あたりの妊娠継続率(胎児心拍陽性率)はFP群もCS群も約40%でした。

 

 

最後に、周産期予後についてもお示しいたします。

  FP群 CS群
出生児数 20児 20児
在胎週数(平均) 38週1日 39週2日
出生時体重(平均±SD) 3098.5 ± 301.2 g 3160.5 ± 433.7 g
児の先天異常 1児(膀胱尿管逆流症) なし
母体の周産期合併症(%) 25.0% (5/20) 20.0% (4/20)

※膀胱尿管逆流症とは、膀胱内の尿が尿管や腎臓に逆流する疾患で、軽度であれば自然に治癒します。薬剤や手術による治療が行われます。

 

両群ともに20人、計40人の赤ちゃんがすべて正期産により産まれました。

周産期予後はがんに罹患していない不妊症の方におけるART成績と類似した結果となりましたが、母体の周産期合併症の割合がやや高いことが分かりました。

 

<検討のまとめ>

 

  • 妊孕性温存した症例とがんサバイバー症例ともに、症例あたりの妊娠継続率は4割程度であった。
  • 周産期予後に大きな問題はないようだが、母体の周産期合併症など周産期管理は慎重に行う必要がある。

 

 

今回の結果や他施設の報告から、妊孕性温存による出生率は40%から60%と報告されており、

また、妊孕性温存を行わなかったとしても、ライフステージや考え方の変化によって挙児を希望される方においても、ARTが有効な手段であることが示唆されました。

妊娠後は慎重な周産期管理が求められますが、乳癌を克服された方から赤ちゃんが40人も生まれたことはとてもHopefulな結果であると思います。

課題としては、妊孕性温存の場合、長期の凍結期間によるリスク、またがん治療に用いられる薬剤による毒性が児に影響する可能性などが考えられます。今後も症例数を重ね、フォローアップを継続してまいります。

 

当院では以前より妊孕性温存に取り組んでいます。

現在、がん生殖医療学会認定ナビゲーターが仙台院に1名(取得予定4名)、高輪院・品川院に3名(取得予定5名)、盛岡院に1名(取得予定4名)が在籍しており、妊孕性温存を実施する体制をしっかりと整えております。

 

今後も検討を続けていくのと同時に、適切な情報提供ができるよう情報収集も行ってまいります。

 

 

仙台培養部

宮本 若葉


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診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)

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