コラム 2025.06.04
ASFI(Assistive Sperm Fusion Injection:精子膜融合補助授精法)習得に向けて
先日、矢内原ウィメンズクリニックにて管理胚培養士を務める畠山将文先生をお招きして、新たな受精方法であるASFI(Assistive Sperm Fusion Injection)についてのレクチャーを実施いただきました。
矢内原ウィメンズクリニック
※管理胚培養士とは、胚培養士の中でも指導的な立場を担い、培養室の管理、胚培養士の指導、臨床医師への助言など、高度な知識と能力、倫理的視点を必要とする日本卵子学会の認定資格です。認定の胚培養士が1500人程の登録がされているのに対して、全国でも30−40人程しか登録されていない高度な資格で、当院にも1名在籍しています。
ASFI(補助精子融合注入)は、不妊治療の一つである顕微授精(ICSI)の改良技術と位置づけられています。従来のICSIは細い針を使い精子を卵子に直接注入しますが、これに対しASFIは、精子の頭部を卵子の透明帯(zona pellucida)に優しく押し当てるだけで、針を使わず自然に近い融合を促す方法です。この技術は、卵子の細胞膜を傷つけることなく受精を促すことを目的としています。
S Hatakeyama et al.,F&S Rep 2025; 6: 17 Figure1より引用
一般的な体外受精(IVF)は、卵子と大量の精子を試験管内で同時に培養し、自然な受精を促します。受精のために精子を卵子の周囲にふりかける方法もあります。これは自然に近い状態であり、物理的な侵襲は少ないですが、受精率は精子の質に大きく依存します。
ICSIは、精子を直接卵子内に注入する方法で、運動性が低い精子や受精しづらいケースで広く使われます。ただし、針を刺すため、卵子に傷がつくリスクや変性が起きる場合があります。
このような傷つくリスクを回避するためにPiezo-ICSIという技術があり、当院でも採用しています。
ASFIを習得し、患者さまに提供することで考えられるメリットは以下のようなものです。
こうした特徴から、ASFIは「より優しい受精方法」として様々なところで注目されています。
一方でASFIにはいくつか課題があるのも事実です。
特に先行研究での発表内容を見ると、受精率等の培養成績での比較がメインですが、妊娠成績での比較が求められます。
また、ASFIは実施にあたり培養士への作業負荷が大きくなることが予想されるため、そうした点を改善していくことが世界的に普及するかどうかにおいて、重要なポイントとなるのではないでしょうか。
ASFIは、卵子のダメージを抑えつつ受精率の向上や、変性率の低減を実現する可能性を持つ革新的な技術として期待されています。今後は更なる臨床研究と技術の洗練により、適応範囲の拡大や、より安全・効果的な治療法として広く普及することが期待されます。また、不妊治療の選択肢を増やし、「諦めない治療」が可能になる一つの進展とも言えます。
生殖補助医療は、たゆまぬ技術革新を続けることで、これまで高い妊娠率を実現してきています。
これからも技術革新を止めることなく、切磋琢磨しながら、患者さんにとって、少しでも高い妊娠率、出産率を実現できるように努めてまいります。
畠山先生、この度はありがとうございました!
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