コラム 2025.07.04
こんにちは、生殖医療相談士の越智です。このたび、現在非常に多くお問い合わせをいただいている「FT(卵管鏡下卵管形成術)」について、詳しく解説いたします。FTをご検討されている皆様のご参考になれば幸いです。
不妊治療を検討される際、まずは不妊の原因を特定するための検査を行うことが一般的です。不妊原因のひとつとして、「卵管性不妊」があります。
卵管とは、子宮から卵巣へと伸びている管とイメージしていただくとわかりやすいでしょう。
自然妊娠の過程では、膣から子宮を経て入った精子がこの卵管を通り、最終的に卵巣の方へ向かいます。
そして、適切なタイミングで卵子と精子が出会い受精が成立します。受精卵は卵管を通って子宮内に移動し、その後、子宮内膜への着床により妊娠が成立します。
この自然な妊娠の流れにおいて、もしも卵管が塞がっていたり狭くなっているとどうなるでしょうか。自然に精子や受精卵が移動できなくなり、妊娠のチャンスは著しく減少します。
こうした卵管の通過障害を「卵管性不妊」と呼び、女性の不妊原因のおよそ30%を占めるといわれています。従来からは、卵管性不妊の場合、体外受精に進むことが一般的でした。日本では体外受精も保険適用となり、費用面でのハードルは下がっていますが、「できるだけ自然な形で妊娠したい」と望む方も多く、そのような方々にとって、FTは有効な選択肢のひとつです。
なお、すべての不妊治療施設でFTを実施しているわけではありません。他院で検査を受け、「体外受精しか妊娠の望みはない」と言われた方でも、FTにより妊娠できたケースもございます。
FTは、内視鏡を用いて行う治療方法で、閉塞・狭窄している卵管を開通させることを目的としています。これにより、自然妊娠の可能性を高めたいと考える方に適しています。
具体的には、細いカテーテル(管)を膣から子宮口に挿入し、卵管の入り口まで進めます。その後、カテーテル内蔵のバルーンを卵管内で膨らませ、詰まりを拡張させることで卵管の通過性を向上させます。一般的に、成功率は90%以上とされております。
なお、閉塞していない卵管においても、潜在的な狭窄部位を認めることがあり、両側でのFT実施が推奨されています。
FTは、月経が終了してから次の排卵日までの間に行うのが標準です。妊娠の可能性がある場合には避妊をしていただき、手術までに妊娠しないよう注意してください。
当院では、静脈麻酔を用いてFTを行います。患者さまには眠っている間に手術が終了しますので、痛みを感じることはありません。安全面に配慮し、手術当日は安静にしていただき、翌日から通常通りの生活を送っていただくようお願いしております。
卵管性不妊は、不妊原因の約30%以上を占めるとされ、主な原因は卵管の閉塞や狭窄です。
これらの原因を確認するためには、いくつかの検査方法がありますが、中でも当院で一般的に実施しているのが「子宮卵管造影検査(HSG)」です。
子宮頚管から細いチューブを挿入し、その先端に付いたバルーンを膨らませて子宮内に固定します。
次に、造影剤とともにX線透視を行いながら、子宮の内部、卵管、腹腔まで造影剤が拡散していく様子を観察します。
検査後、造影剤が卵管内に留まっていないかをレントゲンで確認します。
この検査により、卵管の閉塞や狭窄の有無を正確に把握でき、FTの適応の有無を判断します。
また、卵管には次のようなさまざまな役割があります。
【卵管の主な働き】
卵管の粘液には、精子の活性化や受精卵の発育を促す機能も報告されています。同様に、体外受精に使用される培養液も、卵管内液の性質に近いものが用いられています。
FTの最大の目的は、卵管の閉塞や狭窄を解消し、自然妊娠の可能性を高めることにあります。特に、体外受精に進む前に、まずは自然妊娠の可能性を広げるための一手段として重要です。
実績によると、術後の妊娠率はおおよそ30%から50%と報告されています。なお、術後半年以内に妊娠に至るケースが多く、この期間にタイミング法や人工授精を積極的に行うことが推奨されます。
高輪院では、516例の患者さまを対象に分析した結果、279例(約54%)の方が妊娠されました。そのうち、流産は42例(約15%)でしたが、これは一般的な数値とほぼ同等です。特に、30代の患者さまが多いことを考慮すると、妊娠率は十分に期待できるといえます。
妊娠された方の約半数(135例)は、術後おおよそ6ヶ月以内に妊娠に至っています。(以下、図1参照)さらに、そのうち81%の方が、通常の不妊治療(タイミング法・人工授精)で妊娠しています。(以下、図2参照)したがって、FTの効果的な期間を最大限活用し、他の不妊原因も併せて評価した上で治療計画を進めることが重要です。
ただし、次のような場合は、効果が限定的となる場合もあります。ご留意ください。
1.女性の年齢が高い場合
高齢になるほど自然妊娠の確率は低下します。FTは通過性を改善しますが、年齢による妊娠確率の低下は防げません。
2.卵管の閉塞場所や程度
閉塞が入口付近に限定されている場合は開通可能ですが、卵管采部分で完全に閉塞している場合は腹腔鏡手術の適応となることもあります。
3.男性の不妊原因が重度の場合
男性の不妊原因が重度の場合 不妊の原因は男女半々といわれており、男性側の不妊原因が大きく関わる場合もあります。男性の精液検査で著しい異常が認められる場合は、自然妊娠やFTだけでの解決が難しいこともあります。その場合は、人工授精や顕微授精(ICSI)といった他の高度な生殖補助医療の選択肢が必要となることもあります。
が挙げられます。
FTにより卵管の通過性が改善されると、まずタイミング法や人工授精にステップアップできます。これは「治療のステップダウン」と呼ばれ、より侵襲の少ない方法から次の治療へ進むための有効な選択肢です。
また、卵管の問題だけでなく、男性側の不妊が軽度の場合でも、人工授精を取り入れることで妊娠率を向上させることが期待できます。
FTは健康保険適用の対象となりますが、保険点数が高いため、自己負担額も比較的高くなります。ただし、高額療養費制度や、ご加入の民間保険の手術保険を利用することで、負担を抑えることも可能です。
【医療費の一例(健康保険3割負担の場合)】
片側:約14万3千円
両側:約28万2千円
※実際の費用は、保険適用範囲や保険内容により異なる場合がございますので、事前にご確認ください。
【高額療養費制度について】
この制度は、一定額までの医療費を超えた部分について、後日還付される仕組みです。年収や所得による自己負担上限額が設定されており、その範囲内での支払いとなるため、安心して治療を受けていただけます。利用には事前に「限度額認定証」の申請が必要でしたが、現在は保険証とマイナンバーカードが紐づけられるようになったことで、手続きが簡略化されています。
以上、FTについての詳しい解説でした。ご不明な点や詳細なご相談については、遠慮なく当院スタッフまでお尋ねください。皆さまのご健康とご妊娠を心より願っております。
診療科目:婦人科・泌尿器科(生殖補助医療)
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