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医療コラム

コラム 2025.07.28

保険診療で正しい男性不妊治療を 日常生活のはなし⑪ 熱中症は精子に影響を与えるか

熱中症は年々増えています

今年も例年通り暑い日が増えてきました。
6月末から7月初旬に、ヨーロッパ生殖医学会に参加し、フランスのパリに行ってきたのですが、記録的な熱波で連日38度以上の日々が続きました。
季節的に9時過ぎまで日が出ており、夕方になっても気温が落ちず、危うく熱中症になりかけました。ふらふらしてきてどこかで休もうとしたのですが、ほとんどの施設にエアコンがなく(レストランも!!)、唯一エアコンの効いているスーパーマーケットで水を買いつつ涼みながら、何とか体調を維持していました。
近年熱中症が増えていると言われますが、熱中症とは何でしょう。
熱中症は、過度の高体温、中枢神経系機能障害などをきたします。熱中症は環境の暑熱曝露 (古典的) または激しい身体活動 (労作性) に分類されます。熱中症の最も一般的な症状は熱疲労で、対処に遅れると重篤な状態にに進行する場合があります。
古典的熱中症は主に、激しい身体活動がない状態で高温環境に曝露された幼児や高齢者に見られます。熱い場所に動かずにずっといて熱中症になるタイプです。労作性熱中症 (EHS) は、暑い環境で長時間激しい身体活動を行っている健康で若く体力のある人 (例、運動選手、消防士、農業従事者、兵士、フットボール選手) に見られます。 EHSは、高温作業環境で行われる多くの種類の工業作業(鉄鋼、ガラス、陶磁器工場、建設、厨房、洗濯場など)でも発生する可能性があり、そこまで高温環境でなくでも起こることがあります。
そのため、様々な環境で熱中症は起こりえるものであり、程度な休息や水分・塩分の摂取など対策が必要になります。

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熱中症は精子の状態や性機能に影響を及ぼすのか

哺乳類の陰嚢温度は体幹温度より2~8℃低く、陰嚢の軽度の熱ストレスにより精細管内の精原細胞が死滅し、精子密度の低下、精巣組織の形態変化、不妊症につながると言われています。前にもコラムに書きましたが、サウナやきつめの下着などが精子に悪影響を及ぼす報告が見られます。しかしながら、陰嚢高体温が不妊症にどのような影響を与えるのかは、まだ十分な研究はありません。今回紹介する論文ではラットを用い、コントロール群(NC群)・熱中症を発症したもの(EHS群)・熱中症を発症後3日たったもの(Day 3 post-EHS群)で、様々な臓器の障害に加え、陰嚢温度、血漿テストステロンレベル、精子生存率、精巣、精巣上体、精嚢、前立腺の組織学に及ぼす影響性行動能力 (または陰茎勃起機能) を評価しましています。

結果は

NC群と比較して、EHS群、Day 3 post-EHS群でテストステロンは低下しました。また精巣内の精子のもととなる精原細胞の数の減少や、精子を作る部位である精細管の萎縮が有意にみられ、精子形成に障害が起こっていることが考えらえます。精子の通り道である精巣上体では本来見えるはずの精子が認められず、組織の障害がみられました。
では精子自体ではどうでしょう。EHS群、Day 3 post-EHS群では形態異常の精子が増加しました。NC群と比較して、EHS群では精子数は変わらなかったものの、Day 3 post-EHS群では精子数が減少しました。精子の運動率、生存率はEHS群、Day 3 post-EHS群ともに低下しています。
勃起機能を示す海綿体内圧でも、NC群と比較してEHS群、Day 3 post-EHS群で低下がみられました。これは勃起機能も熱中症で低下することを示しています。

生殖機能への熱中症の影響は大きいと考えていい。

この論文では比較的軽度な労作性熱中症をおこしており、熱中症で直接的に死亡するラットは見られませんでした。しかしながら精子、精巣や性機能のダメージが見られ、それ以外にも脳神経やホルモンにも影響が見られています。
熱帯または亜熱帯の国では雄牛が低受胎になりやすいらしく、その最も重要な要因の 1 つは高い環境温度と言われています。
温度に伴う男性不妊症には、職業性曝露や生活習慣に起因する陰嚢温度の上昇、停留精巣など、いくつかの要因が挙げられますが、今回の研究ではそれほど大きな身体的ダメージがなかったとしても、軽度の熱中症になることで精子形成や性機能、精子の状態などに影響があることが示唆されています。また脳神経、腎機能、肝機能、炎症性物質の増加など精巣だけでなく体の様々な部分にダメージがあります。
これから暑くなりますが、無理をせず暑さ対策をし、夏を乗り切っていただければと思います。

Lin PH, Huang KH, Tian YF, Lin CH, Chao CM, Tang LY, Hsieh KL, Chang CP. Exertional heat stroke on fertility, erectile function, and testicular morphology in male rats. Sci Rep. 2021 Feb 11;11(1):3539. doi: 10.1038/s41598-021-83121-3. PMID: 33574487; PMCID: PMC7878509.


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